全国各地で自治体が出資する地域新電力である「自治体新電力」の設立が相次いでいる。2013年に群馬県中之条町が出資した中之条電力が特定電気事業者(PPS、新電力)として登録されたのを皮切りに増え続け、現在では約50を数える。実行可能性調査(フィジビリティスタディ)を行っている自治体・企業が多数存在することを考えると、今後も相当数増加するだろう。自治体新電力の目的は地域活性化。ただ、条件を満たさなければその目的は果たされない。

かつて地域活性化策として工業団地への企業誘致が行われたが、外来型開発の限界が露呈した。今、改めてこの教訓を見つめ直す必要がある
かつて地域活性化策として工業団地への企業誘致が行われたが、外来型開発の限界が露呈した。今、改めてこの教訓を見つめ直す必要がある
(出所:Adobe stock)

 自治体が新電力に出資するのは、①公共施設の電気料金の削減、②エネルギーの地産地消、③地域経済循環、④地域の低炭素化という4つの行政課題の打ち手になるためだ。

 それぞれの目標を達成するという観点で考えれば、他にも手段は存在するし、他の手段の方が優れているケースもある。例えば、①の電気料金の削減なら、自治体新電力を設立せずとも、入札を実施すれば大手電力や新電力から安値を引き出せる。②の地産地消は、入札時の条件に「地域電源」という要件を付ければ良い。

 しかし、わずか1000万円程度の出資額で、4つの行政課題のすべてを同時に満たしうるところに、自治体新電力の魅力がある。

 ただし、条件がある。自治体新電力を介して行政課題を解決するためには、地域外の企業に丸投げせず、地域が主体となることが必要だ。

 ③の地域経済循環を生み出すためには、新電力業務の内製化と地域出資が欠かせない。そうすれば、電気料金のうち、新電力の一般管理費と利益相当分が地域で循環する。地域外事業者に任せた場合は地域経済循環は弱くなる。

 地元の再エネ電源を用いた電力供給で地産地消を進めたとしても、地域経済循環に結びつくとは限らない。自治体新電力の資本や従業員の多くが地域外であれば、事業者利益や従業員の給与の形で、お金は地域外に出ていく。電力調達費用や託送料金は自治体新電力設立によって地域に循環するわけではない。

 そして、地域課題解決主体になるには、地域の実情を把握し、効果的な対策を行う能力が必要だ。

 地域研究の領域で頻出するキーワードに「内発的発展」がある。内発的発展とは、農村振興・地域産業・途上国支援などの分野で研究されてきた概念で、「外来型開発」に対置する(参考文献[1][2][3]参照)。

 外来型開発は、様々な実証研究で限界が指摘されている。地域の企業や人材が今後の展開に柔軟に対応できる能力を身につけて内発的発展をすることが、その地域の持続的発展に繋がる。外部を活用する場合には、将来に向けてノウハウを地域に取り込むことが重要だ。

工業団地への企業誘致は地域経済効果に乏しかったという事実

 地域経済に内発的発展の概念が登場したのは1960年代にさかのぼる。当時、地域活性化の主役は工業団地を造成して企業誘致することだった。

 例えば、大阪府の海岸を埋め立てて建設した工業団地「堺・泉北コンビナート」は、地域活性化の大事業として期待された。だが結果的には、工業用水などで地域資源を消費し、NOxなどの汚染物質が排出されたにも関わらず、地域経済効果や税収面への寄与は期待を裏切るものだったことが、後の研究で明らかにされている[2]。

 その理由は、誘致した企業が装置産業であり雇用創出効果が小さかったことにある。従業員の大多数が配置転換によって転勤してきた他の地域出身者であり、地元雇用は少なかった。原料などの現地調達も少なく、工場生産に伴う利益は地域外にある本社に流れてしまった。 

 しかも、堺・泉北コンビナートのような外発的開発は、投資決定など経営戦略上の意思決定は地域と無関係に、地域外の本社が行う特徴がある。経営環境の変化に対応する適応力やイノベーション力が形成されないのはもちろんのこと、地元人材の技術蓄積も進まない。景気の動向による工場閉鎖リスクもはらんでいる。

 地域経済活性化と期待された大事業がもたらしたものは、皮肉にも地域経済が育たないだけでなく、工場の撤退とともに地域が衰退するという現実だった。

 このような外来型発展に対置するものとして、地域研究の領域では地域がノウハウを取り込み発展する内発的発展が提起された。過去の地域活性化策の失敗の歴史と内発的発展に関する研究成果は、自治体新電力に対して極めて大きな示唆を与えるものだ。

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