11月1日、世界最大の洋上風力発電開発事業者であるデンマーク・オーステッドが米国ニュージャージー州で開発中の2事業の中止を決め、巨額の減損を公表した。米国をはじめ世界各国で洋上風力は脱炭素とエネルギー安全保障の切り札に位置付けられ、導入目標の上方修正が続いているが、事業を取り巻く環境の悪化が足を引っ張る展開となっている。

(出所:123RF)
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 オーステッドが中止を発表した洋上風力発電事業は、ニュージャージー州(NJ)で進行中の「Ocean Wind 1・2」で、発電容量はそれぞれ1100 MW、1148 MWである。

 減損額は2023年1~9月で合計40億ドルに上る。さらに、落札した案件を中止することによるキャンセル料(ペナルティ)が16億ドル加わる。これだけ巨額の損失を出してなお中止を決定するほど、洋上風力を取り巻く経済環境は激変している。

 コロナ禍の金融緩和とウクライナ侵攻後のエネルギー価格の高騰などで起きたインフレは、いまだ終息が見えない。オーステッドが2事業を落札したのはインフレ前の2019年6月と2021年6月 のこと。その後の世界的な資材高騰により事業費用が落札時の価格と大きく乖離したことが原因だ。また、再エネ投資への税控除などを盛り込んだ米国連邦政府の「インフレ抑制法(IRA)」の適用範囲をめぐっても、オーステッドの要望は通らなかったようだ。

 オーステッドは中止を表明する2カ月前の8月30日に「当局による条件見直しや支援がなければ、23億ドルの評価損が出る」と発表した。だが、その後も連邦政府などの動きは鈍く、状況打開には至らなかった。

 さらに、同社が米国での事業に失望し、NJ州の中止を決めた契機となったとみられるのが、10月12日にニューヨーク州(NY)がインフレによる建設費の高騰に苦しむ複数の風力発電事業者の入札条件要望を拒否回答したことだ。米国内の事業において、事態の好転はいよいよ望めなくなったととらえた可能性が高い。なお、オーステッドはニューヨーク州で924MWの「Sunrise Wind」を開発中で、この案件は公式には断念を表明していない。

 オーステッドの株価は洋上風力関連のニュースが出るたびに下落。11月1日の終値は6年ぶりの低水準で、8月時点より52%減となった。格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは、NY州の拒否回答の直後にオーステッドの格付け見通しを「安定的(stable)」から「ネガティブ(negative)」に引き下げた。

エクイノールとBPも3事業330万kWで減損処理

 苦境にあえぐのはオーステッドだけではない。洋上風力の巨人、ノルウェーのエクイノールと英BP共同体は6月から、オーステッドとともにNY州に入札条件の変更を求めていた。エクイノールらは、ニューヨーク州で、816MWの「Empire Wind 1」、1260MWの「Empire Wind 2」、1230MWの「Beacon Wind 1」の3案件を開発中だ。

オーステッドとエクイノールは米国で多数の案件を開発中
オーステッドとエクイノールは米国で多数の案件を開発中
図1●米国東岸の洋上風力事業(出所:米国エネルギー省「Offshore Wind Market Report: 2023 Edition」2023年8月に著者加筆)

 さらに8月31日には、エクイノールがNY州に対して、落札時のPPA価格の52%の引上げを要請していたことが判明した。NY州の拒否回答により、やはり巨額の評価損が確定した。エクイノールは10月27日に公表した2023年第3四半期決算で3.0 億ドル、BPは10月30日に5.4 億ドルの評価損を発表した。

 NY州は風力発電事業者の要望を拒否したことに対して、「健全な競争入札プロセスを維持するとともに、消費者を守るために拒否した」としている。また、「要請通りのPPA価格の引上げを実施した場合、家庭の電気料金が2.3%~6.7%、企業向けは2.5%~10.5%の引き上げとなる。契約期間を通して電気料金負担の増額は、総額約300億ドルに上り、既に電気料金が高いNY州にとって耐え難い水準」とした。

米英の洋上風力事業がインフレで立ち行かなくなっている
米英の洋上風力事業がインフレで立ち行かなくなっている
表1●米英洋上風力を取り巻く最近の状況 ※NJ州:ニュージャージー州、NY州:ニューヨーク州(出所:各種情報より著者作成)

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