東京ガスが合計30万kWの導入を決めたガスエンジン発電について解説する本連載。前編「レシプロエンジン発電に脚光、機動性理由に東京ガス30万kW導入」では、電力市場価格高騰への備えや、朝夕の価格高騰対策としてのガスエンジンの特長について解説した。後編では、東京ガスがもう1つの導入理由としているΔkW(調整力)について解説する。需給調整市場で収益を上げるためのガスエンジンの優位性や再エネ先行地域でのガスエンジン利用実態、ウィークポイントを紹介する。
「kWhの価値が下がり、ΔkWの価値が上がる」
「再生可能エネルギーが増えていく中で、これからはkWhの価値が下がり、ΔkWの価値が上がる」。東京ガスの電力事業部・電力企画グループの伊藤英臣マネージャーは、こう予測する。
「そうした電力市場の将来を見越した上で、ガスエンジンを選択したという側面もある。機動性の高さを生かし、需給調整市場を通じてΔkWで収益を上げていくことを想定している」。東ガスが保有する火力発電の1割に相当するガスエンジンの導入を決めた、もう1つの目的がここにある。
実際、ガスエンジンの機動性、調整電源としての優位性は、前編で述べた短い起動時間だけにとどまらない。例えば、短時間に出力をどれだけ上下させられるか(負荷変化率)は、需要や再エネの変動への追従性そのものなので特に重要で、ガスエンジンの得意分野だ。
負荷変化率は「1分間に定格出力の何%にあたる負荷を変化させられるか」を表している。コンバインドサイクル・ガスタービン(CCGT)の負荷変化率は2〜11%。一方のガスエンジンは100%超の変化率を有している(図2)。例えばバルチラは、10%負荷と100%負荷の間をわずか42秒で上げ下げできるという。つまりガスエンジンは、秒単位の短い時間で大幅に出力を変えられるため、短時間変動への追従性が極めて高いのだ。
出力調整の幅が大きい、つまり「より低負荷で運転できる」ことも調整電源として重要な要素で、この点ではガスエンジンに優位性がある。CCGTの最小負荷は20〜40%程度だが、ガスエンジンは10〜20%とさらに低い負荷で運転できるのが一般的だ(図2)。ガスエンジンは最大で2万kW程度のエンジンを多数導入して運用するため、起動・停止の速さを生かして、稼働台数によっても出力を細かく調整できる利点もある(図3)。ガスエンジンを数台連ねれば、数%の低負荷から100%負荷までを高速に実現できる、非常にフレキシブルな電源になるのだ。
さらに、定格以下の出力で運転する「部分負荷運転での発電効率が高い」のもガスエンジンの利点になる。需要や再エネの変動を追従する電源は、部分負荷での運転時間が長くなるため、定格だけではなく部分負荷での発電効率が収益性を確保する上で重要だからだ。
一般に火力発電は、部分負荷の発電効率が定格よりも低下する傾向にあり、例えばCCGTは、定格で52〜57%ある効率が、50%負荷では47〜51%に低下する。ガスエンジンは定格でも50%負荷でも45〜47%とほとんど変わらない(図2)。起動・停止によって稼働台数を調整すれば、非常に広い負荷範囲で定格運転に近い効率を維持できる(図3)。
前回解説した「起動時間」「起動コスト」に加え、上記の「負荷変化率」「低負荷運転」「部分負荷効率」での特長が、調整電源としてのガスエンジンの大きなメリットだ。こうした特長は今に始まったものではなく、既に折り紙付きの実績を持つ。国内の数多い離島の調整力をガスエンジンに類似するディーゼルが支えていることが、なによりの証拠だ。
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