東京ガスは合計30万kWのガスエンジン発電所の新設・取得に踏み出した。30万kWは同社が保有する火力発電所の約1割に相当する。ガスエンジンを選んだ理由を探ると、電力市場価格の高騰、再エネ拡大時代に適合する特長が見えてきた。前後編の2回にわたり、ガスエンジン発電の特徴を解説する。

火力電源の1割をガスエンジンに

 ガスエンジンとは、天然ガスなど気体燃料で作動するレシプロエンジンのことを指す。自動車の心臓部である、あのガソリンエンジン・ディーゼルエンジンとほぼ同じ構造の内燃機関だ。

 東京ガスはそのガスエンジンの発電所を、千葉県袖ケ浦市の発電所跡地に新設する。燃料は天然ガスで発電出力は約10万kW。舶用・エネルギー機器大手、フィンランドのバルチラの1万kWのエンジンを10台程度採用し、2024年度中の稼働を予定している。

 それだけではない。東京ガスは、川崎重工業のガスエンジンを採用した既設発電所である、茂原パワーステーション(約11万kW、千葉県茂原市、図1)と椎の森パワーステーション(約9万kW、千葉県袖ケ浦市)を取得済みであることを、著者の取材に明らかにした。取得したのは2022年で、既に運用を開始している。袖ケ浦への新設分と合わせると、1年余りの短期間に約30万kWのガスエンジン発電所の導入を決めたことになる。

複数台設置された川崎重工業製のガスエンジン。1万kW程度のエンジンを個別に制御することで柔軟な運用ができる
複数台設置された川崎重工業製のガスエンジン。1万kW程度のエンジンを個別に制御することで柔軟な運用ができる
図1●茂原パワーステーションのガスエンジン(出所:東京ガス)

 東京ガスはおよそ300万kWの火力発電所を保有するとみられる。これは天然ガスを供給して発電した電力の全量を買い取っている神戸製鋼の真岡発電所(124.8万kW、栃木県真岡市)や、一部を出資する発電所の持ち分を合わせたものだ。その300万kWのうち30万kWをガスエンジンにするということは、火力発電による供給力の1割をガスエンジンにすることに相当する。旧一般送配電事業者に次ぐ規模の電力販売量を誇る東京ガスが、電源ポートフォリオの転換に踏み出している。

「市場高騰への備えのため」

 ガスエンジン・ディーゼルエンジン発電というと、国内では「離島のため」「工場の熱電併給(コージェネレーション)のため」というイメージが強い。海外では電力事業での利用も珍しくはないが、なぜ東京ガスはこのタイミングで、首都圏で30万kWもの新規導入を決めたのだろうか。

 「主たる理由は電力市場価格の高騰対策にある」。同社電力事業部・電力企画グループの伊藤英臣マネージャーはこう説明する。「2021年の冬季のような暴騰時、自社電源を持っていれば高額なインバランス料金などの負担を減らせた。電力事業の収支圧迫も防げた。あのような高騰が再び起きないとは誰にも言えず、ガスエンジンの導入は『備え』としての意味合いが強い」という。

 ただ一見すると、東京ガスの選択には理解できない部分がある。というのも、天然ガスを燃料にして火力発電所を新設する場合、発電効率の高いコンバインドサイクル・ガスタービン(CCGT) を選択するのが一般的だからだ。

 図2は国際再生可能エネルギー機関(IRENA)がまとめた火力発電の比較表だが、定格出力でのガスエンジン(図ではディーゼルエンジンと合わせてICE: Internal Combustion Engineとなっている)の発電効率は40%台後半。CCGTが60%に迫るのと比較すると明らかにガスエンジンの発電効率は見劣りする。

レシプロエンジン(ICE)は起動時間が圧倒的に早い
レシプロエンジン(ICE)は起動時間が圧倒的に早い
図2●火力発電の柔軟性比較(出所:IRENA)※ Hard coal:石炭火力、Lignite:褐炭火力、CCGT:コンバインドサイクル・ガスタービン、OCGT:オープンサイクル・ガスタービン、ICE:レシプロエンジン

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