世界最高の再エネ導入目標を掲げ、急ピッチで大型蓄電池の導入が進む豪州を読み解く本連載。第1回は豪州の概況に加えて、他州との連系線が細い南オーストラリア州(SA)が系統用蓄電池を駆使し、2022年12月平均で再エネ比率85%を記録したことなどを紹介した。第2回はSAで稼働する世界初の大規模系統用蓄電池、俗称「テスラバッテリー」など12の大型蓄電池から注目プロジェクトを紹介する。

(出所:123RF)
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[連載] 豪州が目指す脱炭素フロントランナー

 豪州に限らず、世界の系統用蓄電池事業を見る上で、画期的なプロジェクトが2017年11月に運開した「Hornsdale-Reserve」だ。世界初の大規模な系統用蓄電池であるこの事業が世界に与えたインパクトは非常に大きい。運転開始時の電池容量は100MW/129MWhで当時、世界最大の蓄電池だった。米テスラのハードウエアとソフトウエアを採用したことも話題になり、俗称は「テスラバッテリー」だ。

 蓄電池を所有し事業を運営しているのはフランスの再エネ事業者Neoenの豪州法人Neoen Australiaである。Neoenはこの案件を皮切りに、その後もテスラと組み、画期的な系統用蓄電池事業を次々と展開している。

 豪州では次ページの表1に示したように12の大型蓄電池が運転しているが、そのうち3事業をNeoenが手がけている。また、テスラの蓄電設備は12事業のうち、少なくとも7事業で採用されている。詳しくは後述するが、系統用に開発された大規模モジュール「テスラMP」(Megapack)は「Victoria Big Battery」と「Wallgrove」で採用されている。

常識を変えた仏Neoenの「テスラバッテリー」

 Neoenは系統用蓄電池の第1号案件の立地に、豪州の南オーストラリア州(SA)を選んだ。第1回で説明したように、SAは2016年9月に州全体で停電が発生した。当時、SAは風力発電比率が約40%と非常に高かったことが要因と指摘され、調整力や系統安定に資する予備力が求められていた。

 こうした背景のなか「Hornsdale-Reserve」は運転を開始し、「慣性力(イナーシャ)」を蓄電池が系統に供給できることを証明した。これがプロジェクト名に「Reserve」という文言が入っているゆえんだろう。

 ここで、慣性力について解説する。まず現状の交流システムでは、火力・原子力の汽力発電が慣性力を提供している。汽力発電は蒸気でタービンを一定の速度で回転させることで周波数を形成・維持しており、事故などにより発電設備が解列すると周波数は低下する。低下幅が一定の閾値(しきいち)を超えると次々と解列し、解列と周波数低下のドミノ現象が起きかねない。このドミノ現象を食い止めるのが慣性力の役割だ。

 汽力発電など回転系の発電設備(同期機)は、他機が解列しても自らは回転を維持しようという力(慣性力)が働き、周波数の低下幅および低下速度を弱める効果がある。系統の規模が大きく、慣性力を提供する同期機が多いほど、電力システムは安定しやすい。孤立系統は連系線により広域で汽力発電の慣性力を利用することが難しく、慣性力の確保が課題とされてきた。再エネ導入比率が高まれば高まるほど、さらに慣性力が問題になるというわけだ。

 話を戻そう。テスラのリチウムイオン電池は高速反応が可能であることから、孤立系統に慣性力を提供できるのではないかと期待が寄せられていた。そこでNeoenとテスラは、電力市場と連系線の運用者であるAEMO(Austrian Energy Market Operator)やTSO(送電系統運用者)、SA州政府の助成を受けて、蓄電容量を運転開始当初の約1.5倍にあたる150MW/194MWhに引き上げ、慣性力の実証事業を行うこととした。

 2020年9月に拡張工事が完了後、実証事業を実施したところ、期待通りの慣性力を提供することが確認できた。Hornsdale-Reserveは 2022年7月にAEMOより「慣性力対応可能」の認定を受けた。この認定後、連邦政府は系統用蓄電池の助成措置を創設。一連の動きは注目を集め、Hornsdale-Reserveの「テスラ方式」 は豪州の各地・各州で革新技術と認知され、採用が相次いでいる。

 SAは2022年11月に1週間の完全系統孤立を経験した。その際にもHornsdale-ReserveがSA内の系統用蓄電池の「Darlymple-North」、「Lake-Bonney」と共に慣性力を提供し電力システムの維持に貢献したことは、前回解説したところである(第1回「資源大国オーストラリアは再エネ導入目標で世界トップに」)。

 なお、Hornsdale-Reserveは設置に要した期間がわずか100日だったことでも話題となった。系統用蓄電池事業は設置期間が短いというのも魅力だ。また、2018年1月に嵐によって系統不安が発生し電力市場価格が急騰したことで、運転開始間もない時期に初期投資の回収が進んだ幸運にも恵まれた。

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