米国の蓄電市場を解説する本連載。第3回はテキサス州について解説する。テキサス州のISO(独立系統運用者)であるERCOTは、米国で最も効率的な電力システムを運営していると言われる。固定費の一部を包括的に支援する容量市場を持たず、需給調整から設備投資までのすべてを電力市場が発する価格シグナルに委ねる。競争力のある電源しか投資が進まないテキサス州において、再エネと蓄電池への投資は急増し、膨大な計画が積み上がっている。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 テキサス州の系統運用の約9割を占めるERCOTは、米国で最も効率的な電力システムを運用していると言われている。設備投資は活発で、卸電力価格も小売価格も他州に比べて基本的に安価だ。

 テキサス州の電力系統は独立しており、他州とは直流送電でしかつながっていない。卸電力市場も州内で完結している。ISOであるERCOTは、連邦政府機関(FERC)の管轄下にはなく、料金を含めた制度を独自に決める権限がある。このため、迅速な政策決定やユニークな規制・施策を独自に導入することができる。テキサス州の自由競争、自主独立を尊ぶ気風が、電力システムにも現れている。

 ERCOTの特徴は、なんと言っても「エナジーオンリー市場」であることだ。すべての電力と予備力を、卸電力市場(kWh)とアンシラリー市場(kWh、ΔkW)の市場取引のみで確保する。自由化と安定供給(信頼度)を両立するため、「容量市場」や「容量メカニズム」を卸電力市場とは別に用意する国や地域が少なくない中、ERCOTはこうした仕組みを一切持たない。また、再エネ普及を後押しする補助制度などもない。ただし、需給ひっ迫が発生した際には、「ORDC」と呼ぶ人為的に価格スパイクを発生させる仕組みを持つ。

 電力市場の価格シグナルに、需給調整や発電設備などの投資を完全に委ねるERCOTの方式は、安定性に欠けるのではないかという疑念を長らく持たれてきた。

 「シェール革命」による燃料価格の低下に加え、風力を中心とした再エネの普及によって、ERCOTの電力価格は2012年から2018年まで、7年間にわたり低水準が続いた。その結果、石炭火力の廃止が相次いだ経緯がある。計画予備率は2019年に6%台にまで低下した。

 だが、この年の夏に8年ぶりに価格スパイクが生じ、発電事業は一息ついた。2021年2月には120年ぶりの大寒波が到来し、ガス火力を中心に半数の発電所が凍結して大停電に陥り、再び価格スパイクが発生した。

 2019年夏の価格スパイクを機に再エネへの投資意欲に火が付き、計画予備率は20%を超える水準まで高まった。さらに2021年2月の停電と価格高騰によって、太陽光と蓄電池投資が急拡大している。2023年度以降、計画予備率は40%前後で推移する見通しだ。

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