東京都の太陽光発電義務化に多くの批判が集まっているが、EUは「既存建築」までを対象にした次元の違う義務化に踏み出そうとしている。ロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」を解説する本連載。今回は太陽光発電の拡大策について解説する。

(出所:123RF)
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 「Let's dash into renewable energy at lightning speed.(稲妻のようなスピードで再生可能エネルギーにダッシュしよう)」

 リパワーEUの発表にあたり、欧州委員会のティメルマンス上級副委員長(気候変動担当)は「lightning」という激しい言葉で、再エネ拡大のスピードの重要性をアピールした。

 脱ロシアを早急に実現したいEU(欧州連合)にとって、エネルギー転換の「迅速さ」が重要なことは間違いない。一方で、EUには「脱炭素のためには変化もいとわない」という強い民意があるため、石炭などの化石燃料への回帰は選択肢に入らない。日本で話題に上ることの多い原子力も、素早い拡大という点では他のエネルギー源に劣っている。

 結局、EUのニーズである「脱炭素と迅速な脱ロシア」を両立させる選択肢は、再エネ以外にはないのだ。

 前回はEUのロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」の全体像について述べたが(「脱ロシアは脱炭素で、EUはあと8年で再エネ+原子力を87%に」)、今回はその中核である再エネ拡大政策について解説したい。

世界で進む 屋上太陽光の義務化

 脱ロシア・脱炭素のために、10年以内という“稲妻のようなスピード”で再エネへのエネルギー転換を進める。この特別な制約の下で策定されたリパワーEUの目玉となったのが、これまでEUでは風力発電の影に隠れていた太陽光発電だ。それも建物の上に設置する屋上太陽光発電である。

 なぜメガソーラーや営農型太陽光発電ではなく屋上太陽光なのか。欧州委員会は「EUの電力の25%をまかなえる可能性がある」と屋上の高いポテンシャルに期待を寄せた上で、こう説明する。「既存の建物を利用するため、屋上太陽光は周辺環境などとの衝突を避けることができる。だから、非常に素早く展開できる」。太陽光の中で屋上に注力する理由も「スピード」なのだ。

 屋上太陽光の拡大のため、欧州委員会は「建築物への太陽光発電の設置義務化」を、リパワーEUと同時に提案している。EUの義務化案と、各国・地域で既に導入・検討されている制度との比較を表1に示す。 

EUは既存建築にも太陽光義務化
EUは既存建築にも太陽光義務化
表1●建築物への太陽光発電義務化規定の比較(出所:リパワーEU、各自治体ホームページ、取材などを基に著者作成。EU、群馬県、東京都は検討中のもの)

 まず重要なのが、屋上太陽光の義務化は珍しいものではないということだ。

 例えば米ニューヨーク市では、2019年から新築へのほぼ全面的な義務化を導入している。約4000万人という国家レベルの人口を抱える米カリフォルニア州でも、新築住宅への義務化が始まっている。

 ドイツでは最近になって義務化の動きが加速し、全16州の過半数で義務化が決定・検討されている。特にハンブルク市のような、デンマークに近く日射量の少ない北部でも義務化が進んでいるのは興味深い。

 日本でも2012年から京都府・市が義務化に踏み切っており、10年の実績を土台に、義務化の対象を床面積2000m2以上から300m2以上へと拡大したばかりだ。どの自治体も京都と同じように義務化の対象範囲を拡大する傾向にある。例えばカリフォルニア州は義務化の対象を低層住宅のみとしていたが、2023年からは高層住宅や商業施設などにも拡大。太陽光発電に加えて蓄電池の設置も義務化する予定だ。

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