資源エネルギー庁の勉強会が現行のスポット市場と需給調整市場を統合し、エネルギー(kWh)と調整力(ΔkW)を同時に約定する新市場の導入を提案した。複数の市場が並立する現行制度の効率化やブロック入札の不落の問題解消が期待できる。一方、実現すれば小売り、発電、送配電の役割見直しが必須になる。

 カーボンニュートラル実現に向け変動性再生可能エネルギー(VRE)の大量導入を伴う移行期の今、需給逼迫や価格高騰など、電力の安定供給を脅かす事象が増加しつつある。

 そうした中、資源エネルギー庁および電力広域的運営推進機関が共同事務局となり、2021年12月に 「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会」 を設置した。電力の効率的な調達・確保の観点から、改めて市場機能や事業者の役割を見直す議論が展開されており、次の改革の方向性を占ううえで、いま、関係者が最も注目している会合と言えるだろう。

 勉強会のテーマは多岐にわたり、6月20日の第6回会合で勉強会としての取りまとめ案が提示された。本稿では、5月23日の第5回会合で提起された前日スポット市場の改革を取り上げる。簡単に言えば、エネルギー(kWh)を取引するスポット市場と調整力(ΔkW・kWh)を扱う需給調整市場を統合するという考え方である。

分散型と集中型の2つの市場

 実現するとしてもスケジュール的には少し先の話になりそうだが、小売り、発電、送配電の各事業者の役割の見直しにもつながる改革と言っていい。今回は電気事業に大きな影響をもたらすことになるこの市場改革の意義や課題について考察したい。

 そもそも話になるが市場形態には大きく、欧州や日本が採用している分散型市場と、米PJM(ペンシルベニアなど複数の州にまたがる系統運用機関)などで採用している集中型市場の2つがある。

 日欧の分散型市場では多数のバランシンググループ(BG)が主体となり、ゲートクローズ(GC)までエネルギー市場から電力を調達し、計画値同時同量義務を果たすことが求められる(欧州では実同時同量の国も存在する)。

 並行して送配電事業者は需給調整市場から調整力を調達し、GC後の需給バランスの維持を通じた周波数維持義務を果たしている。

 簡略化のため、ここではデマンドレスポンスなどは除き電源取引に絞った記述とするが、分散型市場のプロセスは複雑だ。限られた電源リソースを巡って、図1のようにエネルギーと調整力がそれぞれ異なる目的、異なる方式に基づいて、異なるタイミングで約定、電源起動を決定する。

日本の電源取引は非常に複雑だ
日本の電源取引は非常に複雑だ
図1●日本の電力市場における取引の流れ(出所:JERA)

 日本は価格規律の異なる複数の市場(kWh市場とΔkW市場)が併存することや、発電BGが自由に応札市場を選択(または回避)できるという「自由さ」がある半面、必ずしも社会全体コストの最適化が実現しないという課題が指摘されている。

日本は価格規律が異なる複数の市場が併存
日本は価格規律が異なる複数の市場が併存
表1●kWh市場とΔkW市場(出所:東京ガス)

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