2022年3月22日に発生した電力需給ひっ迫を解説する連載は、今回で最終回。これまでにひっ迫した原因やよく耳にする言説の検証をしてきました。最終回では前回に続き今後の対策を考えます。
 ひっ迫対策というと蓄電池が注目されがちですが、蓄電池は将来の再エネ超大量導入時代に備える技術。一般家屋がまずやるべきは、とにもかくにも断熱です。

 前回は企業向けの対策として市場機能活用したデマンドレスポンス(DR)を紹介しました。今回取り上げる一般家庭での対策の一丁目一番地は家屋の断熱性能の向上です。

日本の一般家屋は断熱性能が低すぎる
日本の一般家屋は断熱性能が低すぎる
図1●住宅ストック約5000万戸の断熱性能 (平成29年度)(出所: 国土交通省 第49回住宅宅地分科会 資料6)

 図1に示す通り、一般家屋の断熱対策は古い基準に基づいたものが多く、先進国最低とも言われる現行基準(1999年に策定した「次世代省エネ基準」)を満たすものですら10%程度しかありません。

 日本の住宅では、現行基準でさえも窓などの開口部から冬は58%、夏は73%の熱エネルギーが流出・流入しています(図2参照)。このような状況で電源側の対策だけ一生懸命やったところで、穴の空いたバケツに水をくむための蛇口を増やすようなものです。まずバケツの穴を塞ぐことが優先です。

開口部から冬は58%、夏は73%の熱エネルギーが流出・流入
開口部から冬は58%、夏は73%の熱エネルギーが流出・流入
図2●一般的な住宅で生じる熱の損失を部位ごとに相対化した値(出所: 松尾和也「暑さの7割寒さの6割は窓が原因なのに、日本の窓は中国の最低基準以下」Lifull Home’s Press、 2014年11月28日)

 これから新築住宅の購入・建設を検討する人が、先進国最低レベルの断熱基準の家を購入してしまった場合、今後20〜30年もの間、穴の空いたバケツに住むことになります。脱炭素を推進するどころか、知らず知らずのうちに阻む側に加担してしまうのです。

 既存の住宅の断熱対策は、壁面や天井への分厚い断熱材の張り替えなど大掛かりな改装工事が必要なイメージがあるかもしれません。実際には、窓ガラスを単層ガラスのアルミサッシから複層ガラスの樹脂サッシに変更する比較的短期の工事で、断熱効果が大きく向上します。

 3月の需給ひっ迫からちょうど1カ月後の4月22日、政府は「建築物省エネ法」(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)の改正案を閣議決定し、6月13日には国会で可決、成立しました。このニュースは今後の需給ひっ迫対策を考えても僥倖(ぎょうこう)です。

 これまで延べ床面積300平方メートル以上のオフィスビルなどを対象としていた断熱性能などの省エネ基準を、2025年度に住宅を含むすべての新築建築物に拡大します。

 並行して、国土交通省が住宅性能表示制度の見直しを進め、断熱性能の引き上げにかじを切ったことも良いニュースです。今までの住宅性能表示制度で最も性能が高い「断熱等級4」でも、現行の省エネ基準のレベルにとどまっていました。そこで、ZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)水準の「等級5」を創設。さらに、戸建住宅に対してはZEH水準を上回る「等級6」「等級7」も新設します。

 上位の等級の設定や義務化によって、自治体レベルでの支援なども活性化し、断熱性能の高い家屋が徐々に増えていくことが期待されます。

 しかし、「徐々に増えて行く」ではあまりに進展が遅く、カーボンバジェットの考え方に基づく「決定的な10年」に間に合いません(参考「カーボンバジェットと2030年までに急ぐべきこと」)。民間活力と、さらに後押しする強力な政策ドライバーが必要です。

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