2030年に脱炭素電力を87%にする——。ウクライナ侵攻の直後に発表されたロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」には、「脱ロシアは脱炭素で」という欧州委員会の意思が貫かれている。

(出所:123RF)
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 「2030年よりかなり前に、ロシア産の化石燃料から脱却する」

 ロシアによるウクライナ侵攻から2週間も経たない3月8日、欧州委員会はロシア産化石燃料からの脱却計画「リパワーEU」の概要を発表。その2カ月余り後に詳細な計画を公表した。予期せぬ侵攻の後、短期間で作られたこの計画が“突貫工事の産物”であることは否定できない。それにも関わらず、この計画には「欧州が描く未来」が表れている。

 「再生可能エネルギーと水素への切り替えが早ければ早いほど、エネルギー効率を高めれば高めるほど、私たちは真の意味で自立できる」。フォンデアライエン欧州委員長がリパワーEUについてこう述べたように、EUは「エネルギーシフトと省エネルギーを加速させる」ことで、危機に対応しようとしているのだ。

下敷きは脱炭素政策パッケージ「Fit for 55」

 リパワーEUは脱ロシア産化石燃料計画であるが、面白いことにその基礎となっているのは欧州委員会が2021年7月に発表した「Fit for 55」という脱炭素政策パッケージだ。

 Fit for 55は「2030年55%削減(1990年比)」というEU の温室効果ガス削減目標を実現するためのもので、最終エネルギー消費に占める再エネの導入目標を32%から40%に引き上げることや、各種エネルギー効率規制、国境炭素調整の活用などが盛り込まれた包括的な脱炭素政策になっている。

 この政策パッケージの実行を前提とした上で、さらに追加する対策を、欧州委員会はリパワーEUと呼んでいる。EUの脱ロシア政策は脱炭素を下敷きにした計画なのだ。

実質的には「脱ロシア産天然ガス」計画

 リパワーEUには「クリーンエネルギー移行の加速」「省エネルギー」「エネルギー調達の多角化」という3つの柱があり(図1)、それぞれ対策の効果は主に「ロシア産天然ガスの削減量」という形で表されている。

リパワーEUは3つの柱で構成されている
リパワーEUは3つの柱で構成されている
図1●リパワーEUの構成(出所:欧州委員会「リパワーEU計画」)

 天然ガスにフォーカスする形で対策が積み上げられているのは、EUの天然ガス需要の約40%を占めるロシア産の代替が特に難しいためだ。現にEUは、ロシア産石炭とパイプライン経由を除く石油の禁輸を宣言しているが、天然ガス禁輸には踏み切れていない。短期的な天然ガスの代替・削減はそれだけ困難であり、リパワーEUは「ロシア産天然ガスからの脱却計画」という意味合いが強い。

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