3月22日に初めて発出された「電力需給ひっ迫警報」の原因と対策を検証する本連載。第1回 に需給ひっ迫の概要を、第2回 で原因を詳細に分析し、第3回 は原子力との関係性などを検証しました。そして今回は危機対応の妥当性について検証します。なぜ、事後検証の過程で、計画停電の「原則不実施」論が出てきたのでしょうか。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 前回までに、3月22日に発生した需給ひっ迫は、福島沖地震と寒波襲来の同時発生という稀頻度事象によるものであり、不可避だったと明らかにしました。

 具体的には、3月16日の福島沖地震の影響を受け、合計約5 GW (500万kW)の発電所が計画外停止し、連系線運用容量も低下しました。そこへ季節外れの寒波が突然襲来し、1週間前の電力需要予想に比べて、前日の予想が約7 GW (700万kW)も増加したのです。

 では、需給ひっ迫が稀頻度で不可避だからからといって、今後への対策は何もしないでよいのでしょうか。答えは明確に「No」です。

 そこで今回は、危機対応やリスクマネジメントの観点から、今回の需給ひっ迫を振り返ります。

 第2回で「今回の需給ひっ迫は、発電事業者の準備に問題があったとか、一般送配電事業者の運用が悪かったという話ではなく、公開データを見る限り計画と運用自体は適切に行われた」と述べました(第2回「福島県沖地震と急激な寒波到来、需給ひっ迫は不可避だった?」)。

 ただし、当該エリアの電力の使用者(需要家)や住民に対するアナウンスという観点では、大いに疑問符がつく対応でした。

いつ、どのように「需給ひっ迫警報」は発令された?

 図1は需給ひっ迫後の3日後、3月25日に経済産業省が開催した 「第46回電力・ガス基本政策小委員会」の資料 です。ここでは「需給ひっ迫警報(第1報)が3月21日の20:00に発令された」と記載されています。

需給ひっ迫警報は20時に発令された
需給ひっ迫警報は20時に発令された
図1●ひっ迫対応の経緯(出所:第46回電力・ガス基本政策小委員会、資料3-1)

 需給ひっ迫時の対応方法は、あらかじめ検討し、2012年に図2のように定めてありました。このフローチャートは 当時の内閣府「電力需給に関する検討会合(第7回)・エネルギー・環境会議(第10回)合同会合」 で示されたものです。ここでは「現行ルール」と呼ぶことにします。

 現行ルールでは、需給ひっ迫警報(第1報)の発令タイミングを「前日18:00目途」と定めています。今回の「警報発令」は現行ルールより2時間遅かったのです。なぜなのでしょうか。

現行ルールでは警報発令を前日18時としている
現行ルールでは警報発令を前日18時としている
図2●需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ(出所: 内閣府 電力需給に関する検討会合(第7回)・エネルギー・環境会議(第10回)合同会合、参考資料2、2012)

 また、図1の経産省の資料にある「需給ひっ迫警報(第1報) 20:00」という発表時間自体も疑わしいことが、複数の情報から分かってきました。

 図3は経産省のWebサイトのニュースリリースのページのスクリーンショットです。左図が3月21日の20時頃の画像、右図が同じページの翌22日朝の画像です。

 左図と右図を比べると、21日20時時点ではタイトルに「需給ひっ迫警報」の文言が入っていません。翌日追記された左図の赤字部分には「お問い合わせを多数いただきましたので、件名に追記を行いました」とあります。なぜ、「お問い合わせを多数いただく」まで件名に「需給ひっ迫警報」の文言を記載していなかったのでしょうか。

当初、経産省は「需給ひっ迫警報」の文言を記載していなかった
当初、経産省は「需給ひっ迫警報」の文言を記載していなかった
図3●経済産業省のニュースリリース、左は3月21日20時頃、右は22日朝(出所: 経済産業省ニュースリリース、2022年3月21日、3月22日差替)

 さらに、21日20時時点で需給ひっ迫警報の文言を入れていないにもかかわらず、その後の経産省の資料に「需給ひっ迫警報(第1報)を21日20:00に発令した」と記載しているのか。検証が必要です。

 緊急事態であり、混乱や判断に迷いがあったことは容易に予想できますが、たとえそうであったとしても、あらかじめ準備していた通りに粛々と危機対応するのが本来のリスクマネジメントです。

 そもそも「現行ルール」が存在し、フローチャートで具体的な判断基準や行動が定められているにも関わらず、危機発生時にあらかじめ定めたルールから逸脱した行動をとったことが、リスクマネジメントとして重大な問題です。

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