2022年3月22日に東京および東北エリアで電力需給ひっ迫が発生し、初めて「需給ひっ迫警報」が発令されました。幸いにも需給ひっ迫は1日で解消し、大規模な停電には至りませんでしたが、一時はかなり緊迫した雰囲気が漂いました。
 なぜ、需給ひっ迫は起きたのか。原子力の再稼働や火力発電への投資が進んでいれば回避できたのか。ひっ迫は再び起きるのか、取り得る対策とは――。安田陽・京都大学特任教授による解説です。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 本稿では、4月1日に内閣府「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(以下、再エネTF)第28回準備会合にて、筆者が情報提供した資料を基に、需給ひっ迫の要因と対策について解説します。なお、同日は東北エリアでも需給ひっ迫が発生しましたが、本稿では社会的影響度の大きかった東京エリアにのみ焦点を当てて論じます。

 解説は3回に分け、第1回に当たる本稿で全体概要を、続く第2回では原因の分析と、よくある誤解とファクトチェックに焦点を当てます。第3回では、需給ひっ迫警報の発令や計画停電の準備の有無をめぐるリスク対応の問題点について、リスクマネジメントの観点から論じるとともに、具体的対応策・改善策について提案します。

 まず結論から先に述べると、今回の東京エリアにおける需給ひっ迫は、地震による火力発電所の停止・出力低下と、季節外れの寒波による需要増が同時に発生したことに起因します。

 具体的には、 3月16日に発生した地震により、2.5 GW(250万kW)分の火力発電機が停止・出力低下し、変電設備の点検などにより2.3 GW(230万kW)分の連系線運用容量が低下しました。連系線運用容量の低下は、他のエリアから供給できる電力量が減ることを意味します。また、春先に突然、寒波が襲来したため、最大需要の前日予想が1週間前の予想に比べて、7 GW(700万kW)分増加しました。

 これらの2つの事象は、過去にもある程度の頻度で発生しています。それぞれが単独で発生していれば通常の系統運用の範囲内であり、需給ひっ迫警報は発令されなかった可能性が高いでしょう。

 今回、この2つが運悪く同時に発生してしまいましたが、これは確率論的に「稀頻度事象」です。この同時発生を事前に正確に予測することは、現在の地震予知技術や気象予測技術では極めて困難です。雑ぱくな仮定として、地震と季節外れの急激な寒波の発生確率をそれぞれ10年に1度とすると、2つの事象の同時発生確率は1/10×1/10=1/100となり、100年に1度の事象ということになります。

 このような稀頻度事象の発生を電力設備の増強などで予防することは、投じたコストに対して得られる便益(ベネフィット)の期待値が大きくならない可能性があります。コストが経済的に極めて過大となり、無用な国民負担を増やしてしまうことも大いに考えられます。

 今回のような稀頻度事象に起因する需給ひっ迫は、デマンドレスポンス(DR)など需要側で対応する方がコスト効率が高くなります。そして、現在の技術でも十分に実現可能です。ただ残念なことに、日本は制度設計や市場整備が遅れており、現時点ではDRなど需要側での対応は難しい状況です。

 結果論としては、今回の需給ひっ迫に対して一般送配電事業者の取りうる対応は、節電のお願い以外に選択肢がなく、止むを得なかったと言えるでしょう。図1に再エネTFでの説明資料を提示します。

今回の需給ひっ迫は稀頻度事象によって起きた
今回の需給ひっ迫は稀頻度事象によって起きた
図1●今回の需給ひっ迫の要因分析結論(出所:再エネTF第28回準備会合資料)

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