需給調整市場の段階的整備が進む中、4月から一般送配電事業者が「三次調整力①」と呼ばれる調整力の市場調達を始める。送配電による需給調整市場からの調達が過大になると、スポット市場に供出される供給力が減るおそれがある。小売事業者は影響を注視すべきだ。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 火力発電などの電源はkW(供給力)、ΔkW(調整力)、kWh(エネルギー)という3つの価値を提供してきた。このうち一般送配電事業者は調整力公募などを通じて主にΔkWを、小売電気事業者は取引所や相対取引を通じてkWhを調達、利用してきた。

 実際には、送配電事業者が系統の需給バランスを調整するためにはkWhの運用が不可欠であるため、限られたkWhというリソースを巡って小売電気事業者と送配電事業者が競合することも生じ得る。

 しかし、送配電事業者が調整力としてkWhを過剰に調達、専有するならば、小売電気事業者が調達可能なkWhは減少し、市場価格の高騰や不足インバランスを発生させるおそれもある。2020年度冬季のkWh不足によるスポット市場の混乱は、送配電事業者と小売電気事業者の初めての本格的な「衝突」により、加速された面がある。

 近年、老朽火力の廃止などにより供給力そのものが減少しつつある中、送配電事業者による調整力調達方式の変更が進められている。この変更がkWh市場にどのように影響を与えるのか再確認しておきたい。

「三次①」で再エネ誤差や偶発的需給変動に対応

 従来、送配電事業者は「調整力公募」によって電源Ⅰや電源Ⅱを調達してきたが、2021年度以降、段階的に「需給調整市場」が開始され、2024年度以降は全面的に需給調整市場へ移行する(容量市場で確保された発動指令電源の運用を含む)。

 つまり2021年度から2023年度の間は2つの制度が併存する移行期となる。

2021~23年度は2つの制度が併存
2021~23年度は2つの制度が併存
図1●調整力公募から需給調整市場への移行スケジュール(出所:需給調整市場検討小委員会)

 2022年4月から新たに取引が始まる商品が「三次調整力①」(以下、三次①)である。

 三次①は従来の「電源Ⅰ-b」に対応する商品であり、予測誤差(需要・再エネ)への対応を主な目的とした「調整力」と、偶発的需給変動に対応する「予備力」という2つの側面を持つ。

 三次①電源に求められる応動時間は15分(以内)であり、継続時間(商品のブロック時間)は3時間。三次①は周波数制御にも用いられる高速な調整力の1つとして位置付けられており、その重要性から確実に調達することが必要とされている。

 このため、送配電事業者が小売電気事業者に先んじて必要量(ΔkWh・kWh)を確保することになっており、三次①の入札は実需給の前週に実施する。つまり、スポット市場に供出されるkWh量は、常に三次①としての調達量(ΔkWh・kWh)が控除された後の数量となる。

三次①の調達後にスポット市場供出量が決まる
三次①の調達後にスポット市場供出量が決まる
図2●ΔkWとkWhの調達のタイムフロー(出所:需給調整市場検討小委員会)

 送配電事業者が必要とする調整力を事前に確保すること自体は従来から行われていることであり(スポット市場後に調達される三次②を除く)、小売電気事業者側も前年度段階で相対取引などによりkWh必要量を調達することは可能であるため、「前週」という三次①の調達タイミング自体に問題があるわけではない。

 問題となり得るのは、その調達量の多寡である。

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