脱炭素は既に国際経済競争となっているが、日本の存在感は乏しい。スタートアップの社数は欧米の100分の1以下、投資家の数もディール数も桁違いに少ない。脱炭素で日本が戦っていくためには、まずは現実を知ることが重要だ。大阪ガスと東京ガス でシリコンバレーに駐在し、数千社のクリーンテックを見てきたIZM代表の出馬弘昭氏に現状を解説してもらった。

(出所:123RF)
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 気候変動対策は21世紀最大のビジネスチャンスと言われている。欧米に遅れてようやく日本にも脱炭素ブームがやってきたが、グローバルで見れば日本の存在感は非常に乏しい。

 欧州や米国、中国などの諸外国は脱炭素立国を目指し、自国における脱炭素社会の実現と新たな雇用の創出に取り組んでいる。脱炭素ビジネスを世界展開するべく、猛烈な競争を始めているのだ。

 現在の環境政策と技術だけでは、脱炭素社会は到底、実現できない。だからこそ、欧州は脱炭素でルールチェンジを起こそうと政策立案で主導権を握っている。北米は脱炭素を実現するテクノロジーのイノベーションでリードしている。

 では、いずれも劣後している日本は、どうやって脱炭素を巡るグローバル競争を戦っていけばよいのだろうか。

 筆者は大阪ガスと東京ガス に在籍していた2016年から5年間、シリコンバレーに駐在し、日本のエネルギー企業として初めて脱炭素分野のグローバル・スタートアップとのビジネス開発を手掛けた。

 イノベーションのメッカであるシリコンバレーで、脱炭素分野を中心に数千社のスタートアップを見た。加えて、欧米エネルギー大手のCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル:事業会社によるスタートアップ投資)も見てきた。そこで本稿では、脱炭素分野のイノベーションについて、世界と比べた日本の立ち位置を紹介したい。

脱炭素でイノベーションを起こす「クリーンテック」

 宇宙やライフサイエンス、金融などあらゆる分野において、イノベーションの主役はスタートアップだ。大企業は未来を創るであろうスタートアップと協業・出資・買収・PMI(合併後の統合作業)することで、自らを変革しようとする脇役となった。

 脱炭素分野のスタートアップは、「クリーンテック」「クライメートテック」「グリーンテック」「エンバイロンメントテック」「カーボンテック」など様々な名称で呼ばれる。これはエネルギーだけでなく、交通、物流、農業、食料、素材、資源、環境など幅広い分野を扱うためだ。シリコンバレーではクリーンテックと呼ばれることが多いため、ここからは脱炭素分野のスタートアップをクリーンテックと呼ぶことにする。

 「クリーンテック」という言葉は2002年にサンフランシスコで創業した米Cleantech Groupが作った造語だ。同社はクリーンテック分野の専門データベースや分析レポートなどを提供する調査会社である。

 同社は2009年から毎年、「Global Cleantech 100」(GCT100)を発表している。GCT100は、Cleantech Groupが世界のクリーンテック分野の有識者とともに選んだ有望なクリーンテック企業100社のリストだ。

 Cleantech Groupは毎年、サンフランシスコと欧州でクリーンテック分野で最大規模のカンファレンスを開催し、GCT100企業を披露する。このリストに選定された企業は、有望な投資対象とみなされ、買収の対象となることも多いことから、GCT100は注目を集めてきた。ただ、残念ながら、これまでGCT100に選ばれた日本企業はない。

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