11月、東北電力とJERAが日本卸電力取引所に玉出しする際の入札価格の基準を変更すると発表した。売り入札価格のベースとなる「限界費用」の考え方を変える。電力需給の実態をより市場に反映させる政府方針に沿ったもので、2社以外の大手電力にも広がる可能性が高い。だが、電力市場価格の変動が大きくなる要因にもなりそうだ。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 11月以降、JEPX(日本卸電力取引所)スポット市場価格は需要期前としては異例の高値が続いた。

 そのさなか、東北電力はJEPXのスポット市場への売り入札価格に反映する限界費用の考え方を11月24日以降、変更すると発表した(「日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場への入札における限界費用の考え方について」)。その後、11月22日に実施時期に関して「準備ができ次第」の一言が加わり更新された。

 続いてJERAも11月24日のプレスリリースで、電力・ガス取引監視等委員会の確認が完了した日以降、限界費用の考え方を見直した入札を実施すると公表した。

 現在、旧一般電気事業者は「自主的取組」として、余剰電力の全量を市場に供出すること、限界費用でスポット市場に売り入札することが求められている(限界費用は必ずしもすべてが燃料コストというわけではないが、本稿では単純化のため「限界費用=燃料コスト」とみなすものとする)。

 旧一電各社は火力発電の燃料を長期契約や短期契約、スポット購入などを組み合わせて調達している。各社は従来、長期契約や燃料スポット市場などによる調達済み燃料の「加重平均価格」を限界費用とする考え方をとってきた。

 東北電は11月24日以降(準備が出来次第)、これを燃料スポット調達などによる「追加的な調達を考慮した価格」に変更するというのである。つまり、JEPXスポット市場に売り入札する際の限界費用の基準(考え方)を変える。

LNGスポット価格の比重が高まる
LNGスポット価格の比重が高まる
表1●東北電力が発表したJEPXスポット市場への売り入札価格の考え方(出所:東北電力)

足元で売り入札価格は上昇

 JEPXスポット市場における主な限界電源および燃料種はLNG(液化天然ガス)か石油である。

 LNGのスポット価格(JKM:北東アジア向け価格指標)およびJLC価格(日本着のLNG平均価格)の推移をグラフ1に示す。日本のLNG短期・スポット調達比率は1割程度であるため、JLCは長期契約価格に近い水準であるとみなせる。

足元のLNGスポット価格は長期契約価格を大きく上回る
足元のLNGスポット価格は長期契約価格を大きく上回る
グラフ1●LNGのスポット価格・輸入価格、電気料金の推移(出所:電力・ガス基本政策小委員会)

 足元ではLNGのスポット価格は長期契約価格を大きく上回っているため、東北電などの変更は売り入札価格を上げる効果を持つ。

 なお、東北電やJERAではこの変更を、追加的な燃料調達価格の上昇・下落にかかわらず適用することを表明しているため、燃料スポット価格が長期契約を下回る時にはJEPXへの売り入札価格は従来よりも下がると考えられる。

 燃料スポット価格をより直接的に反映することにより、売り入札価格は高値/安値いずれの方向に向けても従来以上に変動性が増すこととなり、JEPXスポット市場の約定価格も今以上にボラティリティが増すことが予想される。

 ボラティリティの高さは、リスクプレミアムとして先物価格などに反映されることとなり、小売電気事業者の調達コストの増加要因になる。

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