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 再エネ電力の利用を表明する企業は後を絶たない。ESGを標榜する企業にとって、再エネ電力への切り替えが着手しやすく、分かりやすい選択肢であることは事実。ただし、中長期の経営戦略を踏まえた調達方針を作り込んでから取り組むようにしたい。切り替えに投じたコストや工数をムダにすることになりかねないからだ。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 少々、再エネ電力への切り替えを、安易に考えすぎてはいないか――。

 華々しいテープカットや株主総会への点数稼ぎに主眼を置いている企業が相当数、存在することを懸念している。確かに、ESGへの企業姿勢を示すに当たり、再エネ電力への切り替えは手っ取り早い方法だろう。

 だが、再エネ電力への切り替えは、自社の工場の屋根に太陽光パネルを少し載せて終わりという話ではない。企業として気候変動対策に取り組むことは、中長期でのビジョンや経営戦略に向き合うことだと認識して行動しないと、海外の投資家や環境団体からグリーンウオッシュとの批判を招く事態にもなりかねない。

 2020年10月に菅義偉首相(当時)が2050年のカーボンニュートラルを宣言してから、国の意向に沿う目標を表明する企業が増加している。だが、「2050年に温暖化ガス排出量を実質ゼロにする」という目標を決めただけで、そこまでの過程を全く示していない企業も少なくない。

 事業に利用する電力を再エネ100%に切り替える国際イニシアチブ「RE100」へ加盟した企業の中にすら、段階的な目標を設定していないところがある。いわば目標の先送りである。

2050年カーボンゼロ目標だけでは不十分

 海外では、このやり方は全く評価されない。2050年というゴールに向けて、現時点から5~15年ごとに目標年を設定し、それぞれに具体的な削減目標を決める。ステークホルダーは、目標を達成するための手法やコストなども含めて、その企業の取り組みを評価している。蓋然性の高い取り組みでなければ、企業価値を高めることはできないのだ。

 具体的な目標の設定方法は、「SBT」(Science Based Targets)の考え方に基づいて、まず2050年の気温上昇を何度以内に抑えるというシナリオを自社が選択するのかを決める。シナリオを決めれば、おのずと自社の排出削減量を定めることができる。これを年率に落とし込み、毎年どの程度の排出削減を進めなければならないのかを計算する。

 具体的にはSBTの「1.5度目標」にのっとるのであれば、自社の削減目標は厳しいものになる。2度以内と設定すれば、自社の削減目標は穏やかになるが、ステークホルダーの評価は得にくいだろう。

 企業の業態によっては目標実現への難易度は異なるため、その点も考慮が必要だ。例えば、電気料金が売り上げの20%を占めるような製造業は、目標達成のハードルが高くなりがちだ。一方、電気料金が売り上げの0.5%程度にとどまるのであれば、高い目標を定めても実行に移しやすい。

 目標値の設定に際しては、国内外の先進企業や同業他社がどのようなゴールやポリシーを設定しているかをベンチマークしてみてほしい。

なぜ再エネ? ゼロベースで検討を

 もう少し詳しく説明すると、再エネ電力を調達する際の方針決めは3ステップで検討するとよい。まず第1ステップは、自社のあるべき姿を考えることだ。

 コンサルタントとして、再エネ電力への切り替えプロジェクトを支援する際には、「まず、なぜ再エネ電力に切り替えるのかを考えてください。なぜCO2削減では不十分で、再エネにこだわるのかも合わせて考えてください」と伝えている。「国がやると言っているのだから、企業もやると決まっている」と決め込むのではなく、ゼロベースで考え、腹落ちしなければとても続かないからだ。

 再エネ電力への切り替えは、中長期の経営戦略そのものだ。取り組む期間は長く、それなりのコストが発生する。どのような再エネを選ぶかを検討する前に、サステナブル経営をどのように進めていくのかというスタンスを明確にしておかないと、時間とお金をドブに捨てることになりかねない。

 第2ステップは、経営方針に基づいた再エネ電力に関するポリシーの策定だ。

 RE100やSBTなどの規格に準拠することで、ネガティブスクリーニングにひっかかることを避け、自社の既存事業に悪影響が及ばないようにする「守り」なのか。はたまた、再エネ電力調達を通じて社会課題を解決し、環境先進企業として企業価値を高める「攻め」のポジションを取るのかを検討する。もっと攻めるのであれば、再エネを事業化し、世界の再エネを増やすことに直接貢献する道もある。

 ここまで決めたら、第3ステップで具体的なロードマップを作る。最終ゴールに向けた再エネ電力の導入目標を段階的に設定するとともに、どんな再エネ電力を選択するのかを決める。

 3ステップのうち、第1ステップと第2ステップは経営者自らが決めるケースが多い。ただし、「経営トップが決めたことだから」と鵜吞みにせず、経営層と関係部署との間で、膝詰めで議論して、会社全体で取り組める設計をすべきである。

 経営トップのコミットも含めて、全体設計が固まったら、第3ステップのロードマップを作成に取りかかる。予算を確保し、推進体制を構築したら、いよいよスタートだ。この方針決めが、再エネへの切り替えプロジェクトの成否の90~95%を占める。言い替えると、3ステップの検討を経ずに再エネ電力への言い換えを進めてしまうと、後になって「こんなはずじゃなかった」と後悔することになりかねない。

 再エネ電力への切り替えプロジェクトは、実のところ、企画部門のエース級人材がギリギリ回せるというくらいの難易度がある。もっとも若い世代はSDGsを含めて社会課題への関心が高い。優秀な若手人材にとって、非常にやりがいのある仕事になるはずだ。

再エネ電力の調達方法は3種類

 ロードマップの策定が完了し、いざ再エネ電力を調達すると決まったら、具体的な手法を選択する。調達手法には大きく3種類ある。

 1つ目は、電力会社が提供する再エネ電力メニューを選択すること。通常の電力契約と同様に、電力会社から購入すればよい。2つ目は、電力契約はそのままに、環境価値証書を購入する方法だ。

 日本では「再エネ電力=電力+環境価値」と定義している。電力は、どんな発電所で発電した電力でもかまわない。環境価値は、非化石価値証書などの環境価値証書のことを意味している。

 1つ目の電力会社の再エネ電力メニューは、電力と環境価値を電力会社がセットで提供しているものだ。2つ目は、電力はこれまで通り、電力会社から調達し、環境価値証書だけを別途、購入する手法である。

 そして3つ目が「生のグリーン電力」だ。ユーザー企業が自ら再エネ電源の開発に直接関与する方法のことである。自社の施設の屋根に太陽光パネルを設置し、その電力を使う「自家消費」、離れた場所にある自社発電所の電力を使用する「自己託送」、新規の発電所から長期契約で電力を購入する「コーポレートPPA」がある。

 「守り」のスタンスで再エネ電力を調達するならば、その時々で最も安価な手法を選べばよい。「攻め」ならば、世の中に再エネ電源が増える活動を直接的に支援することが重要になる。最初にじっくり検討すれば、自社が取るべき選択肢はおのずと見えてくる。

 再エネ電力の調達にかける工数とコストを企業価値向上につなげるには、とにもかくにも方針策定が重要なのだ。

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