昨今の原油高や欧州での電力・ガス価格の高騰などは、なぜ起きているのか。急激に動き出した各国の脱炭素政策の影響はあるのだろうか。エネルギーアナリストでポスト石油戦略研究所代表の大場紀章氏に解説してもらった。

(出所:123RF)
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 現在、世界同時多発的にエネルギー危機が発生している。特に、欧州での電力・ガス価格の高騰、中国での計画停電、そして原油価格高騰によるガソリン高が話題になっている。

 こうした問題を受けて「脱炭素政策の行き過ぎによるもの」という指摘がある。全く無関係とまでは言わないが、ほとんどナンセンスと言っていい。そう説明がしたい人による説明だろう。

 そもそも「脱炭素政策」というのは、この2年で急に世界で起きたムーブメントであり、そのような短期間でエネルギー供給の構造が大きく変わるということはない。

 それでは、なぜエネルギー価格が一斉に上昇しているのか。価格高騰原因は、どこを起点にして、何を前提にして考えるかによって様々な説明があり得る。究極的には神学論争となるが、筆者が最も説得力があると考えているのは、化石資源開発の停滞問題である。

石油業界の懸念が的中した

 覚えておられる方もいるかもしれないが、2014年から2016年にかけて原油価格が大幅に下落した時期があった。きっかけは2014年春に上海株式市場が混乱し、中国経済の失速懸念が出たことだった。

 世界のエコノミストが予想経済成長率を軒並み下方修正した結果、それまで1バレル100ドル程度で推移していた原油価格が急落。さらに同年秋の石油輸出国機構(OPEC)総会で、市場が期待していた減産合意を行わなかったことで、原油価格はさらに下落し、歯止めが効かなくなった。このOPECの動きは後に「シェール潰し」などと呼ばれた。

 その結果、石油やガスの上流投資は大幅に削減され、投資額がピークだった2014年比で2016年は45%の減少となった。

化石資源の上流投資額は2014年がピークだった
化石資源の上流投資額は2014年がピークだった
(出所:国際エネルギー機関(IEA)のデータを基に著者作成)

 その後、原油価格は徐々に回復したが、石油・ガス業界は数十万人のリストラに踏み切るなどダメージが大きく、上流投資が戻って来ない状況が続いていた。そこに到来したのが、新型コロナウイルス感染拡大による経済の停滞だ。コロナ禍によって再び原油価格は下落し、上流投資はさらに減って2020年は2014年比で58%減となった。

 一般に、石油・ガス開発は、開発サイクルの速いシェールを除けば、投資から生産まで少なくとも5~6年はかかる。このため2015年以降の上流投資不足が2020~2021年ごろの供給に影響を及ぼすだろうと、石油業界はかねて懸念していた。

 ところが、2020年はコロナ禍で石油需要が縮小してしまったため、この懸念はひとまず表出せずに済んだ。だが、徐々に世界経済が回復するにつれて、供給力不足の問題が原油価格の高騰という形で現れてきたというのが筆者の見立てである。

脱炭素トレンドは上流投資縮小より後の話

 脱炭素やカーボンニュートラルというトレンドは、2019年の英国による宣言を皮切りに顕在化した。2019年にEU各国が英国に続いて宣言し、2020年には中国、そして日本も続いた。米国もバイデン政権が誕生すると、この動きに追随した。

 だが、いずれも石油・ガス上流投資が縮小した後に起きており、直接関係がない。確かに今年に入り石油メジャーが脱炭素のために石油開発を縮小するという動きはあったが、現在の生産量には全く影響していないだろう。

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