2021年1月のJEPXスポット市場価格の高騰は、地域新電力の経営に多大な影響を及ぼした。自治体新電力では、かづのパワー(秋田県鹿角市)や塩尻市森林公社(長野県塩尻市)が事業休止を発表する事態に。今年の夏冬の電力需給の見通しも厳しく、資源エネルギー庁は新電力に注意喚起を強めている。
市場リスクに加え、電力システム改革の進展や競争環境の激化に伴い、地域新電力の事業環境は大きく変化している。地域新電力のリスクマネジメントについて考えてみたい。

 まず、1月の市場高騰の最中、地域新電力は何をしていたか、示唆に富む事例を2つ紹介したい。

 1つ目の事例は、自治体新電力ならではのデマンドレスポンス(DR)を実施した能勢豊能まちづくりである。大阪府の能勢町と豊能町が出資して設立し、2020年10月に電気供給を開始したばかりの比較的新しい自治体新電力だ。

 小売電気事業に加えて、東京大学や大阪大学などと連携した共同研究なども手がける。例えば、能勢町が交通課題を解決するために導入を検討しているe-bikeについて、通学時の安全性や環境効果の検証などを進めている。e-bikeとは、スポーツタイプの電動アシスト自転車のことだ。

高騰時、緊急省エネ診断やキャンペーンで電力供給量を削減

 能勢豊能まちづくりは、冬に市場が高騰し始めるやいなや、需要家の施設へエネルギー管理士を派遣して省エネ診断を実施。専門家による省エネ診断の結果を基に、効果的な省エネをお願いして回った。

能勢豊能まちづくりは市場高騰時に緊急省エネ診断を実施した
能勢豊能まちづくりは市場高騰時に緊急省エネ診断を実施した

 需要家側も迅速に要請に応じ、施設によっては使用電力量の約4割を削減したという。IoTもAIも使わないアナログなDRだが、非常に大きな効果が出た。

 4割という削減効果は、エネルギー管理士の派遣前後、数日間の単純比較であり、気温などの効果は考慮していない。とはいえ、これほど大きな削減効果が得られたのは、需要家と密接な関係にある地域新電力だったからだ。

 2つ目の事例は、「緊急省エネキャンペーン」を行った東松島みらいとし機構である。同機構は、東日本大震災で甚大な被害が出た宮城県東松島市で、小売電気事業のみならず特定送配電事業、ふるさと納税事業、公営住宅管理と幅広い地域サービスを担っている。

 東松島みらいとし機構が実施した省エネキャンペーンは、1月の市場高騰時に前年同月の使用電力量と比較した削減分について、20円/kWhを還元するというものだ。急遽作成した手作りのチラシを需要家に配布し、節電を呼びかけた。

 20円/kWhの還元はもちろん赤字だが、JEPXが200円/kWh台を連発していた当時の調達単価と比べれば、ダメージは大きく軽減できる。このキャンペーンによって電力供給量を約4%削減できたという。

 企業規模が大きな新電力は、混乱期に短期間で思い切った施策を打つのは難しい側面がある。身動きが軽い地域新電力ならではの取り組みだろう。

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