これまで小売電気事業者が「高度化法義務」を達成するための制度だった非化石価値市場が2021年に大きく変わることになりそうだ。FIT電源による発電分は需要家も参加可能な新たな「再エネ価値市場」で取引し、従来の「高度化法義務達成市場」では非FIT非化石証書しか扱わない。小売電気事業者への影響を占う。

 2018年に開始された非化石価値取引市場が2021年、抜本的な制度変更を迎える。

 エネルギー供給構造高度化法は、年間販売電力量5億kWh以上の小売電気事業者に対して、非化石電源比率を2030年に44%以上とすることを義務付けている。その達成を後押しする仕組みが「非化石証書」であり、これを取引する場として創設されたのが「非化石価値取引市場」だ。

 つまり非化石価値取引市場は、もっぱら事業者の法的義務達成のためだけの「コンプライアンス市場」としての性格が強いものであった。

 しかし、非化石証書には環境価値、特に再生可能エネルギー由来の電力に付随する多様な価値を取引するという側面もある。国際的な潮流として再エネ電力調達を目標に掲げる企業が増え、国内でも再エネ価値の取引ニーズを無視できなくなってきた。

 そこで、非化石証書を幅広いマーケティング手段に活用できる「商品」として、需要家が直接アクセス可能なように急遽、再設計することになったのが今回の制度変更である。

 この制度変更は資源エネルギー庁の制度検討作業部会で議論している。3月26日の第48回会合で突如、2021年度から非化石価値取引市場を「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」の2つの市場に分割する案が示された(3月26日資料「非化石価値取引市場について」)。

高度化法達成に使えるのは「非FIT証書」だけに
高度化法達成に使えるのは「非FIT証書」だけに
図1●2つに分割される非化石価値取引市場(出所:制度検討作業部会)

 その後、4月15日(第49回)と5月26日(第51回)の作業部会で取り上げられ、5月26日の資料には「高度化法義務達成市場が本年8月から取引を開始する」と記載されている(5月26日資料「非化石価値取引市場について」)。小売電気事業者にとって影響の多い制度変更であることから、新電力各社からは議論不十分との意見が噴出している。

第1フェーズ途中での制度変更、中間目標の修正は不可避

 非化石証書には「FIT」「非FIT(再エネ指定あり)」「非FIT(再エネ指定なし)」の3種類がある。制度変更後は、FIT証書は「再エネ価値取引市場」のみで取引されることになり、従来の「高度化法義務達成市場」では取引できなくなる。つまり、FIT証書は高度化法の義務達成に用いることができなくなる。

 小売電気事業者は「非FIT証書(再エネ指定あり)」と「非FIT証書(再エネ指定なし)」の2つの証書だけで高度化法の目標を達成しなければならず、環境が激変することを意味する。

 経済産業省は確実な目標達成のために、2020~2022年度を第1フェーズとして中間目標値を課している。その途中でこのような大きな制度変更を行うこと自体、極めて異例であり、市場参加者である小売事業者の中期的な予見性を失わせることとなる。

 このため、資源エネルギー庁の制度検討作業部会では、まずは実務上必要不可欠な作業として、小売電気事業者の2021年度中間目標値の見直しに着手している。

 市場への信頼は「市場メカニズム」を適切に機能させる土台だ。そこで、今回は中間目標値の見直しの前提となる小売事業者の入札行動や市場運営ルールに関する論点を取り上げたい。

FIT非化石証書の供給量は潤沢

 まず、2021年度(およびそれ以降)の非化石証書の需給バランスと市場参加者の入札行動を推測するにあたり、2020年度の需給と入札行動の実績を押さえておく。

 2020年度の非化石価値取引市場の入札(オークション)結果は表1の通りである。非化石証書の入札は年4回開催されるが、非FIT証書の入札が開始されたのが2020年度の第2回(11月開催)からであるため、表1ではこの期間のみを集計対象としている。

FITか非FITか、再エネ指定のある・なしで需給に違い
FITか非FITか、再エネ指定のある・なしで需給に違い
表1●非化石価値取引市場2020年度入札結果(出所:制度検討作業部会、JEPX資料から著者作成)

 供給側商品の1つである「FIT証書」の供給量が潤沢であることは周知の事実である。

 FIT証書の約定量は2019年度では約4.4億kWh、2020年度は14.6億kWhと少量であったのに対して、2020年度FIT非化石証書発行量は約994億kWhであり、現時点は圧倒的な供給過多にある。このため約定価格は最低価格の1.30円/kWhに張り付いたままである。

 2020年度時点では、市場参加者はこのことを前提とした入札行動を取ったと考えていい。

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