大手新電力から中小まで、今回の電力市場の高騰ダメージを受けていない新電力は、ほぼ存在しない。だが、痛み具合には差がある。そこには電源調達と需給管理という2つの業務の巧拙と、「バランシンググループ」と呼ばれる新電力支援サービスの存在がある。

 2020年12月中旬から始まった日本卸電力取引所(JEPX)の価格高騰が、新電力の経営に深刻な影響を与えている。楽天モバイルが、電力・ガス小売りサービスの「楽天でんき」の新規契約を当面停止すると発表するなど、事業の停止や撤退を決断する企業も現れ始めた(「楽天でんき新規契約停止、大手新電力から中小、自治体新電力まで総崩れへ」)。

 電力市場は度々高騰する特性があるが、過去にこれほどの高値が付いたことも、1カ月以上続いたこともない。市場高騰リスクを織り込んでいた新電力でも、並大抵ではないダメージを受けている。自社で発電所を保有するNTTグループのエネット(東京都港区)ですら「会社存続が危ぶまれるほどの事態」(NTTの澤田純社長)にあり、毎日、数億円の損失が出ている状況だという。

 このように市場高騰の影響を受けていない新電力は、ほぼ存在しない。だが、市場高騰のリスクへの備えがどれだけできていたかによって影響度には大きな差が生じている。

 そこには、新電力事業の根幹である「需給管理」と「電源調達」という2つの業務がある。この業務に対するノウハウや巧拙によって差が生じているのだ。

新電力事業は薄利多売、需給管理の巧拙で粗利が倍変わる

 新電力事業は薄利多売なビジネスだ。だからこそ需給管理と電源調達の巧拙が業績に直結する。ざっくり金額感を説明しよう。

 ある新電力が、10円/kWhで電力を調達したとする。電力網の使用料金(託送料金)を支払って17円/kWh。販管費を2円/kWh加えて19円/kWh。これを電力の利用者である需要家に20円/kWhで販売して、1円/kWhの利益を得る。これはあくまで簡易的な例だが、新電力事業は、これほどの薄利多売な利益構造であり、電源調達費用の原価に占める割合が高いのが特徴だ。

 この例では、電源調達費用が1円/kWh下がれば、それだけで粗利が2倍になる。安く電源を調達できれば、一気に収益が増えるというわけだ。その反面、今回の市場高騰のように、電源調達費用が上振れすれば大きな損失が出てしまう。

 電源調達費用は日々変動する。相対調達によって固定価格で電力を確保している部分もあれば、JEPXスポット市場や先物市場での調達など、日々価格が変動する調達先もある。このため、市場高騰を予測し、あらかじめ備えておくことが欠かせない。

 また、新電力(小売電気事業者)には「同時同量」の義務が課せられており、自社の需要家(電力を利用する家庭や企業)が必要とする電力量に調達量をぴたりと合わせなければいけない。この業務を需給管理と呼ぶ。ズレが生じた分については、ペナルティとしてインバランス料金を支払う。インバランス料金の支払額を抑えるため、自社の顧客の需要を正確に予測するスキルが必要だ。

 つまり、需給管理と電源調達は新電力の生命線と言って良いほどに重要なのだ。

 季節ごとに市場高騰の可能性を予期し、可能性が高い場合は速やかにJEPXから調達を引き上げ、発電事業者などからの固定価格での相対調達に変更する。あるいは、電力先物市場で将来の電源調達を先に済ませておく。

 さらには、大きな工場など使用電力量が多い需要家に前もって状況を説明しておき、電力の使用時間帯を変更したり、需要を抑制してもらうなどデマンドレスポンスを実施する。ありとあらゆる手を駆使して、市場高騰リスクを回避するのだ。

 もっとも、こうした需給管理能力は、一朝一夕では身に付けることはできない。しかし、需給管理は例外なく全ての新電力が実施しなければならない業務だ。

 そこで新規参入の新電力の多くは、需給管理の業務を別の新電力に委託代行してもらっている。また、事業の規模が小さい間は、発電事業者が取引規模を理由に相対調達を断るケースが少なくない。このため、需給管理業務だけでなく、電源調達も併せて委託せざるをえない事情もある。

 現在、国内には新規参入の新電力の需給管理や電源調達を代行する新電力が50社ほど存在する。小売電気事業者のライセンスを保有する企業は700社あるが、新電力事業を手がける企業の約7割が、需給管理を委託していると言われている。

 ただ、この委託先の新電力の電源調達や需給管理の実力には開きがある。どの新電力に業務を委託しているかによって、市場高騰の影響度合いに差が出ているのが実態だ。「高騰の影響をほとんど受けていない」(地方中小新電力幹部)という言葉がたまに聞かれるのは、委託先の新電力のおかげというわけだ。

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