奈良県生駒市の自治体新電力が住民監査請求を受けたことは記憶に新しい。市が随意契約で新電力「いこま市民パワー」から、周辺市よりも割高な電力を調達しているというのが、その理由だ。いこま市民パワーのその後の歩みは、自治体新電力が進むべき道筋を照らしている。

 奈良県生駒市は2017年7月、再エネ地産地消や利益の市民還元などを目的に、自治体新電力「いこま市民パワー」を設立した。出資金は1500万円で、生駒市が51%を出資。大阪ガスが34%、生駒商工会議所が6%、南都銀行5%、市民エネルギー生駒4%と続く。

(出所:いこま市民パワー)
(出所:いこま市民パワー)

 生駒市は、大阪市や京都市に近い住宅都市だ。市民の行政への参画も積極的な地域で、いこま市民パワーは、この市民力の活用を大きな柱として運営されている。

 市民力を象徴するように、出資者には、市内のシルバー人材を中心とした市民団体「市民エネルギー生駒」が名を連ねる。市民団体が出資する新電力は全国初だ。

 市民エネルギー生駒が手掛ける市民出資の太陽光発電を新電力事業の電源に使っている点も、いこま市民パワーの特徴だ。

自治体新電力への住民監査請求が提起

 その生駒市が、「周辺市より割高な電力を購入している」として、住民監査請求を受けたのは2018年11月のことだった。一部住民が小紫雅史市長に対して、いこま市民パワーに支払った電気料金の全額に当たる2億5000万円を市に返還するよう求めたのだ 。

 背景には、関西電力による安値攻勢がある。 この時期、新電力が供給していた周辺自治体の公共施設の電力調達入札において、関西電力が極めて低価格で落札しているのだ。

 公共施設の入札では、あらかじめ前年実績や大手電力の標準価格などを元に「予定価格」を算出する。いくつかの公共施設では、関電の入札価格は、予定価格の半額(落札率50%程度)という安さだった。

 市の監査委員は住民監査請求に対して、政策遂行上、市がいこま市民パワーから優先的に電力を購入する必要があることを認め、「直ちに違法又は不当であるということはできない」と2019年1月に退けた。

 その後も、同じ住民が同様の内容で対象時期を変えて再び監査請求をしたが、2020年1月に棄却している。原告側はこれを不服として、現在は行政訴訟へと発展している。

 この監査請求における監査委員の見解は、一般競争入札と随意契約で、いこま市民パワーから電力を購入する場合とに差額が生じるのであれば、それは市の「政策遂行のコスト」であるというものだ。生駒市が、いこま市民パワーを通じて、低炭素化や住民サービスの向上といった政策目的を果たそうとしているためだ 。

 また、監査委員は、いこま市民パワーを活用する際のコストを認識したうえで、生駒市としての政策遂行の有用性や必要性を検証すべきとした。

 つまり、住民監査請求を通じて、「いこま市民パワーは政策遂行コストを上回る効果を出す必要がある」と指摘されたのである。

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