東日本大震災を経た2013年11月の電気事業法改正により本格化した電力システム改革。2015年の電力広域的運営推進機関の設立、2016年の全面自由化を経て、2020年4月に発送電分離と予定通りに進捗している。
 一連の動きによって、旧一般電気事業者(大手電力)の収益力と財務体力は、どのように変化しているのだろうか。大手電力各社の直近の決算数値を、東日本大震災と電力システム改革の影響を受けていなかった10年前と比較し、何がどのように変化したのか、その変化の持つ意味合いは何かを考察する。

(出所:Adobe Stock)
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 大手電力各社の財務諸表のうち、連結キャッシュフロー計算書に焦点を当てて分析を試みたい。単純に直近期(2020年3月期)の決算を10年前の2010年3月期と比較するのではなく、それぞれ3年間の平均値同士を比較する。つまり、2008年3月期~2010年3月期の平均値と、2018年3月期~2020年3月期の平均値とを比較して議論する。

 損益計算書ではなくキャッシュフロー計算書を分析に使用する理由は、より正確に「事業の実力」を見るためだ。損益計算書は、経営者の方針によって変動させ得る程度が大きい。一方、キャッシュフロー計算書は、現金の出入りを記録するという性格上、恣意的な操作がしにくいという特徴がある。

 例えば、直近の2020年年3月期には、大手電力のうち4社が減価償却の方法を変更することで損益計算書上の利益を多く見せている。そのため、以前の決算期の利益水準と同じ基準で比較できない。それに対してキャッシュフロー計算書は、この減価償却方法の変更の影響を受けていない。

 3年間の平均値を使用する理由は2つある。1つは燃料費調整制度(燃調)だ。

 燃調による収益のブレは、燃料費の単価が上昇する過程では電力会社の利益を下げ、単価下落の局面では利益を上げる。直近の2020年3月期は燃調が収益に有利に働き、その前の2019年3月期は不利に働いた。3年間の平均を使えば、燃料市況の変動影響がある程度ならされ、収益の実力が見える。

 もう1つの理由は、年度によって、どうしても大きく変動する設備投資額の影響をならすためである。

 なお、今回の分析は電力システム改革の影響の考察が目的なので、電力システム改革において例外的な扱いとなっている沖縄電力を除いた大手電力9社を対象とした。具体的には、北海道電力、東北電力、東京電力ホールディングス(HD)、中部電力、北陸電力、関西電力、中国電力、四国電力、九州電力である。

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