新電力を含めたエネルギー事業者にとって法令や制度設計議論は事業運営上、非常に重要な要素だ。一方で、見落とされがちだが深刻な課題もある。それが、電気保安人材の不足問題だ。
 高圧以上の電気設備の維持・管理には「電気主任技術者」が不可欠であるが、今後10年間で、この業務を担う人材が足りなくなるという調査結果も出てきた。エネルギービジネスの成長を止めかねない深刻な状況だ。

(出所:Adobe Stock)
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 経済産業省は東日本大震災後の2012年12月、原子力を除く発電設備や電気設備、電気工事に関する保安行政の在り方や規制の具体的内容について審議を行う「産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会」を設置。その後、約8年間で計21回の会合を開催している。

 この小委員会の検討課題は、発電設備や電気設備に関わる最新技術、導入が拡大する再エネ電源の保安の在り方、災害時の設備被害状況分析・対策、保安のスマート化など多岐にわたる。

 電気保安・工事を担う人材の確保問題が議論の俎上に上がったのは2015年のことだ。

メガソーラーがメンテできず止まってしまう可能性も

 電気事業法は、発電・送配電・受電設備などの事業用電気工作物の所有者に対して、規模に応じて第1種〜第3種の電気主任技術者を配置する義務を課している。

 また、電気工事士法は、自家用または一般用電気工作物の工事を行うには第1種または第2種の電気工事士の有資格者が必要であると定めている。

 特に、第3種電気主任技術者と第1種および2種の電気工事士が2020年以降、2030年にかけて不足する可能性があるという。経済産業省が2017年に実施した「電気施設等の保安規制の合理化検討に係る調査」には、2030年に第3種電気主任技術者が2000人不足するという驚きの数字も出ている。

 経産省によると、有資格者が必要な電気設備は毎年0.6%増加しており、今後も増加傾向は続くという。再エネの普及拡大と、都市部での再開発でビルの建設ラッシュなどが背景にある。

 第3種電気主任技術者は5万V未満かつ5000kW未満の設備の保安を担う。数MWの太陽光発電やちょっとしたビルや工場といった建物の受電設備の点検や保安が該当することを考えると、その影響は小さいとは言えないだろう。

(出所:経済産業省「産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会」 第1回電気保安人材・技術ワーキンググループ、資料3)
(出所:経済産業省「産業構造審議会 保安・消費生活用製品安全分科会 電力安全小委員会」 第1回電気保安人材・技術ワーキンググループ、資料3)

 例えば、大規模太陽光発電所(メガソーラー)。2012年の固定価格買取制度(FIT)の施行以来、日本各地に数多くのメガソーラーが建設・運営されている。電気保安人材の不足によって、買取期間の20年の間に保守・点検ができなくなり、発電事業の継続ができなくなる可能性がある。

 首都圏や地方都市で進む再開発も影響を免れない。新しいビルを建設しても、電気主任技術者を確保できなければ、ビルは利用を開始できない。

 2019年に関東を襲った大型の台風15号のように、自然災害によって企業の事務所や工場の電気設備に不具合が出ても、電気主任技術者が駆けつけられなければ、自社設備は復旧できない。系統の停電が復旧したとしてもだ。

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