米国の電力自由化地域の中でも、激烈な小売り競争を繰り広げているのがテキサス州だ。規制当局が新規事業者のシェアを拡大する施策を推し進めたことが背景にある。既存の大手小売事業者がこれ以上のシェア低下を防ぐために、新メニューや新サービス・技術を発表しているほか、新規事業者も既存ビジネスの殻を破ったユニークなメニューを投入している。新サービスを可能にするためのソフトウエアを開発するスタートアップの活動も活発化している。
 ここでは、日経BP 総合研究所が発刊した「世界エネルギー新ビジネス総覧」から、既存の大手小売事業者としてNRG Energy、卸電力市場価格に連動した料金メニューを提供しているGriddy、エナジーポバティ―や被災者向けの電力寄付プログラムを開発したGridmatesの取り組みを紹介する。

大手電力のシェアが40%切るまで基準価格以外の小売りを禁止

 米国では1990年代から電力システムの自由化が始まり、発送電分離や小売り自由化が進んだ。現在では、全米14州およびワシントンD.C.で小売部門が自由化されている。これらの、州・地域では既存の大手小売電気事業者に加えて、ユニークなメニューを掲げて新規参入する事業者が増え、顧客獲得競争が激化している。

 なかでもテキサス州は、系統運用機関であるERCOT(Electric Reliability Council of Texas)が既存の大手小売電気事業者が40%のシェアを失うまで基準価格以外での小売りを禁止し、新規事業者の参入を促した。ERCOTはテキサス州の面積の75%の地域をカバーしている。

 さらに、同州の規制当局であるPUC(Public Utilities Commission:公益事業委員会)が公平で網羅性の高い価格比較サイト「Power to Choose」を開設して、需要家が他の事業者に乗り換えるスイッチングを容易にする環境を整備した。これらの施策によって、新規参入事業者のシェアが5割を超え、全米で最も激しい競争を繰り広げている。

NRG Energy、基幹ブランドアピールのためのスマートハウスを建設

 NRG Energyは、米国東海岸とテキサス州など11州の電力自由化地域で310万件の顧客を保有する大手小売電気事業者である。激烈な競争に勝ち抜くために同社が打ち出した戦略が、「マルチブランド」だ。

図1●ヒューストン市郊外に建設された「Reliant Energy」ブランドをアピールするためのスマートハウス
図1●ヒューストン市郊外に建設された「Reliant Energy」ブランドをアピールするためのスマートハウス
(撮影:日経BP 総合研究所研 クリーンテックラボ)

 高品質なエネルギーサービスを求める顧客向けに、ニューヨーク州やニュージャージー州などの東海岸地区では「NRG Home」、テキサス州では「Reliant Energy」という基幹ブランドを提供し、100%再生可能エネルギーの電力を求める顧客向けには「Green Mountain Energy」を訴求している。

 また、シェアが40%を切ったことから、低価格や報酬を求める顧客向けに、価格と高品質のバランスの良い「Cirro Energy」、最安な料金の「Pennywise Power」、支払いごとにキャッシュバックなどが得られる「Everything Energy」などのブランドも展開している。

 顧客が他ブランドに移るスイッチング防止の努力も続けている。その代表が、基幹ブランドの「Reliant Energy」である。NRG Energyが2009年にテキサス州最大の小売事業者だった米Reliant Energyを買収することによって、ブランド化したものだ。

 「Reliant Energy」ブランドでは、顧客向けに新しい技術やサービス、それに基づいた新料金メニューなどを積極的に提案しており、それらを満載したスマートハウス(図1)をヒューストン市郊外に建設して、ショーケースとしている。

図2●料金メニュー「Reliant Speak&Save 24プラン」で無償提供されるNest製サーモスタット
図2●料金メニュー「Reliant Speak&Save 24プラン」で無償提供されるNest製サーモスタット
(撮影:日経BP 総合研究所研 クリーンテックラボ)

 NRG Energyは、米Nestや米Googleと提携して、サーモスタットやスマートスピーカーなどの機器と電気をセットにした料金メニューを提供している。このプランは、契約期間を24週間とすることによって、これらを原資にしてサーモスタット「Nest Thermostat E」(図2)とグーグルホーム(図3)を無償で顧客に提供する。

図3●Googleのスマートスピーカー「グーグルホーム」。ボイスコントロール機能で電力消費量の確認やサーモスタットの温度調整などが可能
図3●Googleのスマートスピーカー「グーグルホーム」。ボイスコントロール機能で電力消費量の確認やサーモスタットの温度調整などが可能
(撮影:日経BP 総合研究所研 クリーンテックラボ)

 スマートハウスでは、同プランを選択するとどのような生活が送れるかを実際にデモンストレーションしている。顧客のアカウントとグーグルホームおよびサーモスタットが連動しており、ボイスコントロール機能を使って「OKグーグル、どのくらいの電力を消費していますか?」と発声すると、電力消費量の情報を日次、月次単位で細かく答えてくれる。

 サーモスタットに対しても、ボイスコントロールによって「もう少し暖かく」や「もう少し涼しく」と指示することで、室温を上げ下げしてくれる。Nestのサーモスタットは学習機能を備えており、顧客が望む温度に調整したうえで、無駄を省くようにスケジュールを組むプログラミングがされる。これにより、「快適な環境を保ったうえで、エネルギー消費量を15%削減できる」とNestの担当者は語る。

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