固定価格買取制度(FIT)の開始に先立ち2011年に制定された再エネ特措法も、施行から10年余りの年月が経ちました。再エネ特措法は法律レベルの改正に加えて、省令や告示、ガイドラインなど下位のレベルの改正を頻繁に繰り返してきた経緯があり、2012年のFIT制度開始当初と比べると、その内容は大きく変わっています。
 そして2023年5月には再エネ特措法のほか、原子力基本法や電気事業法など5つの改正法案を一本化した「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立し、3回目の大きな改正となりました。そこで今回は、再エネ特措法の歩みを振り返るとともに今後を展望します。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

【質問1】 再エネ特措法は、すなわちFIT法のことでしょうか。

【回答1】 再エネ特措法の現在の正式名称は、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」です。もっとも、2022年4月以前は「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」という名称でした。

 「電気事業者による再エネ電気の調達」という表現から分かるように、電力会社に再エネ電力の買い取りを義務付けるFITを前提とした名称でした。そのため、再エネ特措法は「FIT法」という略称で呼ばれることも少なくありません。実際、経済産業省もFIT法という略称をよく用いていました。

 2022年度からFIP(フィード・イン・プレミアム)制度が導入され、FIT以外の再エネ支援政策も法律で定めるようになったことから、再エネ特措法の正式名称を現在のものへ変更したのです。FIT法という略称も最近は使われなくなりました。

 なお、「再エネ特措法」という略称は、以前の「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」と現在の「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法」、いずれの略称としても機能します。改正時期を気にせず使える便利な略称です。

 ちなみに、改正後の略称として「再エネ促進法」という略称が使われていた時期があります。「再エネ促進法」という略称は法律名の素直な略し方ではあるのですが、現在では「再エネ特措法」という表現が定着しています。

【質問2】 再エネ特措法によって導入したFIT制度は、目的を達成したと言えるのでしょうか。

【回答2】 FIT制度は、再エネ電力の固定価格での長期買い取りを保証することによって事業収益の予見可能性を高め、参入リスクを低減させることで再エネの導入を政策的に拡大しようとするものです。再エネの導入量を拡大することでスケールメリットによるコストダウンを図り、再エネ電源の自立を促し、電力市場へと統合することを目的とした制度です。

 この10年間、太陽光発電や風力発電を中心とする再エネ電源が急速に増えたことを考えると、FIT制度の効果は大きかったと考えます。

 特に太陽光は、2012年度の事業用太陽光のFIT価格が40円/kWhであったのに対し、2023年度のFIP入札の上限価格は10円/kWh未満になっています。さらに近年では、FITもFIPを利用しない太陽光発電事業も数多く見られるようになってきました。市場への統合という目的は達成されつつあります。

 また、再エネ発電事業への新規参入が相次ぎ、開発事業者だけでなく、建設や維持管理業務の受託者、資金提供する金融機関、技術・法務のアドバイザーなど、再エネビジネスに関与する人の数が飛躍的に増加しました。その結果、再エネ発電事業に関連する諸制度や実務についての知見が広く理解されるようになりました。

 FIT制度の「再エネの普及」という目的を考えたとき、単純なコストダウンだけでなく、こうした習熟効果が得られたことは大きな成果と言えるでしょう。

 さらに、再エネ発電事業への参入が容易となったことで、海外からのインバウンド投資も拡大しています。日本市場に参画する海外のプレーヤーとのやりとりを通じて、日本国内のプレーヤーが、日本の再エネビジネスの制度・仕組みについてより深く理解する契機となっています。

 一方で、初期の太陽光発電のFIT価格が高額で、一部の関係者に利益が偏在することとなったという批判もあります。地域の環境を破壊するような開発を行う案件も存在し、問題となっています。また、再エネの導入は進んでいますが、太陽光パネルや風車などの主要な部品は輸入品が幅を利かせており、国内の産業振興策としては役立っていないように見受けられます。

 このような側面も含めて、FITは功罪ともあったと思いますが、明らかに「功」が上回ったという印象です。完璧ではないにしても、試行錯誤を重ねてより良い制度にしようと改善が重ねられており、前向きに評価しています。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら