「長期脱炭素電源オークション」の制度設計が 4月5日の中間とりまとめ案の公表 により一区切りしました。今年10月ごろには初回オークションに向けた事前登録が始まり、2024年1月に初回オークションの応札を実施する予定です。
 この制度についてはこれまでにも本コラムで解説しましたが、制度設計が進展したことで修正点なども出てきました。そこで改めて、新制度と容量市場の関係性や他市場収益の還付、想定外のコスト増への対応、再生可能エネルギー電源の入札参加方法について解説します。

(出所:123RF)
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【質問1】 長期脱炭素電源オークションと容量市場の関係について改めて教えてください。

【回答1】 2023年4月に 「長期脱炭素電源オークションガイドライン」の案文「容量市場における入札ガイドライン 」の改定案 が公表され、容量市場と長期脱炭素電源オークションの関係がより明確になりました。

 「容量市場」という言葉は、複数の意味を持っています。これまでに容量市場のオークションとして実施されたのは、実需給年度の4年前に開催される「メインオークション」だけです。そのため、現在では「メインオークション=容量市場」という使い方をしているケースも多く見られます。

 しかし、容量市場には、メインオークションだけでなく、実需給年度の1年前に必要に応じて実施される「追加オークション」があります。メインオークションと追加オークションは、将来の特定の実需給年度を対象に供給力を募集するものであり、2つの総称として「容量オークション」という言葉を使います。また、容量オークションとは別に、容量オークションでの調達量不足や政策的対応のために別途実施する「特別オークション」という制度があります。

 今回公表された「容量市場における入札ガイドライン」の改定案において、長期脱炭素電源オークションは、メインオークションと追加オークションと同じく、「容量オークション」の1つに位置付けられました。

 前回の解説記事「2023年度に始まる『長期脱炭素電源オークション』、容量市場との違いは?」では、当時の整理に従い、長期脱炭素電源オークションは「特別オークション」として位置付けられていると紹介しました。その後さらに制度の整理が進み、長期脱炭素電源オークションは、特別オークションではなく容量オークションの1つと、位置付けが修正されました。長期脱炭素電源オークションも、将来の特定の実需給年度に必要な供給力を募集する仕組みであるという点が、メインオークションおよび追加オークションと共通しているからでしょう。

 容量市場制度は、2020年度からメインオークションが実施されてきたため、現時点では「容量市場=メインオークション」という感覚があります。しかし、2023年度からは実需給年度1年前の追加オークションの適用が始まりました(ただし、2023年度は、2024年度実需給向けの追加オークションは開催しないとの判断がなされています)。さらに、2023年度からは新たな容量オークションとして長期脱炭素電源オークションが導入されます。

 今後、「容量市場」という言葉を使う際には、具体的に何を指しているのか意識したいものです。

【質問2】 長期脱炭素電源オークションは、他市場収益の約9割を電力広域的運営推進機関に還付する点が特徴的です。では、還付はどのタイミングで行うのでしょうか。還付額の算定に使う他市場収益に関する情報は経営上、非常に重要な情報ですが、必ず政府に報告しなければならないのでしょうか。

【回答2】 長期脱炭素電源オークションの落札事業者は、相対の売電契約やJEPX(日本卸電力取引所)、需給調整市場などでの取引で得た収入に加えて、広域機関から容量支払を受けることができます。しかし一方で、他市場で得た収益の約9割を広域機関に還付しなければなりません。

 事業者が受け取る容量支払は、制度検討作業部会の第11次中間とりまとめ案やガイドラインでは「容量確保金」や「容量確保契約金額」と呼称されており、容量市場メインオークションと同様に広域機関から事業者に対して毎月支払われます。一方、収益の還付は月ごとではなく年度ごとです。毎年3月末までの1年間ごとに、他市場からの収入を踏まえた実際の収益を計算して、その約9割を広域機関に還付します。そのため、事業者は将来の還付に備えて現金を管理しなくてはなりません。

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