2023年度に新たに導入される新制度「長期脱炭素電源オークション」。この制度名称は2022年6月に決まったばかりでなじみが薄いかもしれませんが、早くも第1回オークションが2023年度中に実施される予定です。そこで今回は制度設計が急速に進む長期脱炭素電源オークションの概要やポイントを解説します。

(出所:123RF)
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【質問1】 長期脱炭素電源オークションという新たな制度が始まるとのことですが、どんな制度なのですか。また、なぜ新制度を導入するのでしょうか。

【回答1】 長期脱炭素電源オークション(以下、新制度)は、電源への新規投資に対して原則20年間にわたり支援する制度です 。導入の背景には、新規電源への投資が停滞しており、長期的には電力の安定供給の確保に懸念が生じているという事情があります。

 再生可能エネルギーは、「FIT」(固定価格買取制度)や「FIP」(フィードインプレミアム)などの支援制度が後押しすることで新規投資が急拡大しています。最近では再エネ由来の電力に対する需要が高まっており、FIT・FIPを利用しない再エネ開発案件も太陽光発電を中心に増加しています。 一方で、火力発電のような従来型の電源については、電力の安定供給を支える重要な役割を担っているにもかかわらず、新規の投資が十分に進んでいるとはいえません。

 発電設備の新設は、最初に大規模な投資を行い、その後、長期間にわたる売電によって投資を回収していくというビジネスモデルです。そのため、発電事業者の投資決定のためにも、建設費用などのファイナンスを実現するためにも、 投資回収の確実性が重要です。

 例えば、FITを利用する場合、FITによる固定価格での買い取りが投資回収の見通しを支えています。一方、FITのような支援制度のない電源については、電力会社との間の売電契約(PPA:Power Purchase Agreement)が投資回収の確実性を示す役割を果たします。ただ、近年では長期で売電契約を締結することが難しくなっています。電力自由化による小売競争の激化や脱炭素化など、電力ビジネスの将来を見通すのが難しくなっているためです。

 また、太陽光・風力のような自然変動電源の増加に伴い、火力発電所の稼働時間が短くなることを踏まえると、FITのようなkWh当たりの売電単価が保証されるだけでは、十分な売電収入を得られない可能性があります。kW当たり固定収入が確保されないことには、投資回収の確実性が見込めないというわけです。

 そこで、長期間の固定収入を確保する制度を新たに導入し、新規の電源投資を促進することで、長期的な電力の安定供給を確保することとなったのです。新制度の活用によって新規電源への投資判断が進むとともに、プロジェクトファイナンスの道が開かれる ことが期待されています。

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