11月から再エネ指定の非化石証書の発行が始まりました。これに伴い、電力・ガス取引監視等委員会は、「FIT電気」と再エネ指定非化石証書を組み合わせた電力の表示を、現状の「実質再エネ」ではなく、「再エネ」と表示できるようにするかどうかを検討しています。
 再エネに関する制度は、「FIT電気」「再生可能エネルギー電気」「実質再エネ」など、似て非なる用語が多数存在し、非常に分かりにくいのが難点です。そこで今回は、各用語の意味やFIT電気の調達手法である「再エネ特定卸供給」、さらにはFIT電気の調達実務、現在検討されている制度変更について解説します。

(出所:Adobe Stock)
(出所:Adobe Stock)

【質問1】 「FIT電気」とはそもそも何なのでしょうか。また、FIT電気には再エネとしての価値がないと言われます。これはどういうことなのでしょうか。

【回答1】 「FIT電気」という用語の意味を正確に理解するには、FIT制度の全体像を思い起こす必要があります。

 FIT(固定価格買取制度)を利用して売電する再エネ発電事業者は、卸電力価格(市場価格)よりも高額な固定価格によって電力を買い取ってもらうことができます。市場価格を上回る金額分は、最終的には電気料金への「再エネ賦課金」(再生可能エネルギー発電促進賦課金)の追加という形で、電力の需要家の支払いによって支えられています。

 再エネ導入という政策目標の下、すべての需要家のあらゆる電力の使用に応じて、広く再エネ賦課金を課すことから「国民負担」と表現します。

 FITは電力の需要家が支える再エネ導入支援策であるため、FITを利用する再エネ発電所(以下、FIT発電所)で発電した電力に付随する「再エネによる環境価値」は、すべての需要家に均等に帰属していると整理されています。

 小売電気事業者がFIT発電所で発電した電力を販売する時、もし無条件に「再エネ」と表示して割増料金を設定できるとすると、「再エネ」と表示することによる割増分を小売電気事業者が利益として得ることになってしまいます。

 FIT発電所による環境価値は、すべての需要家に帰属しているわけですから、小売電気事業者に割増料金を払っても、需要家が手にする環境価値が増えるわけではありません。需要家が支払う割増料金は再エネ賦課金とは別のものであり、国民負担の軽減にもなりません。こうした仕組みになっているため、FIT発電所による電力は、販売時に「再エネ」と表示できないのです。

 そこで、環境価値が付随しないFIT発電所に由来する電力を示す言葉が必要になり、「FIT電気」という用語が誕生しました。FIT電気という用語は、電力小売りの場面において、「再エネとしての環境価値を含まない電力」という理屈を説明するために使う特殊な用語なのです。

【質問2】 FIT電気が再エネとしての環境価値を含まないことは分かりました。FIT電気に環境価値がないならば、なぜわざわざ特別な呼び方まで作って、他と電力と区別しているのですか。

【回答2】 小売電気事業者がFIT電気を差別化して販売するためです。FIT電気を環境価値のある電力として販売することはできませんが、「特定のFIT発電所に由来する電力」として販売することが可能です。制度上も実務上も、FIT発電所による電力を区別して販売するため、「FIT電気」という呼称を使っているのです。

 ではここで、小売電気事業者がFIT発電所の電力を、どのように調達しているのか、制度を振り返ってみましょう。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら