国内に参入する欧米系の電気事業者や電力市場関係者が増えている。市場取引の経験に乏しい事業者が多い日本市場は外資系にとって稼げる市場だ。焦点は先物取引である。本格的に先物を活用するには国内事業者も時価評価能力が必須になる。

(出所:123RF)
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 10月18日、東京商品取引所(TOCOM)と欧州エネルギー取引所(EEX)の共催によるシンポジウム「Japan Power Week」に参加してみた。

 国内の電力先物を上場している東京商品取引所(TOCOM)と、国内で電力先物取引を対象にクリアリングハウス(清算業務)を運営するEEX(欧州エネルギー取引所)の共催という点からもわかるように、テーマは電力先物をはじめとする電力取引に焦点が当たった。

 シンポジウムのもう1つの特徴は、国内の大手電力や新電力のほか、複数の海外の電気事業者や市場関係者も講演やパネルディスカッションに登壇したことだろう。彼らは欧米で積んだ経験をベースに日本市場でのビジネスチャンスをうかがっており、このシンポジウムはそのアピールの場にもなっているようだった。

 国内の大手電力からは手元の発電資産の運用を駆使し、電力市場の価格変動がもたらす電力取引上の収益機会を増やす取り組みなどが紹介された。いわゆる「Asset-backed trading(ABT)」とか「Trading around assets」と呼ばれる取り組みで、発電設備やLNG貯蔵設備などの資産を保有する優位性を生かしたトレーディング(売買)を指す。

 当初は欧米で発達した市場業務手法だが、日本においても電力トレーディングを収益化する意識が高まってきたことを改めて認識させられた。そして、電力市場に特有の価格ボラティリティー(価格変動)を用いて収益性を高めたり、無用なリスクは抑えてヘッジしたりする重要性が国内でも高まっていると感じた。

 その一方で、このシンポジウムで強く意識させられたのは「海外勢の目」だ。パネルディスカッションに登壇したある海外の市場関係者は日本の電力市場の課題を3つ挙げた。

日本勢の弱みは海外勢のビジネスチャンス?

 1つは日本の電力市場にマイナス価格がないこと。2つ目はヘッジ会計が認められていないこと。そして、3つ目が日本の市場の難しさとして、発展途上にある市場整備と再生可能エネルギーの導入を同時並行で進めざるを得ないことである。

 その参加者はこれらの課題について「規制当局と市場参加者のコミュニケーションの問題」とコメントしたが、これを聞いて“日本の弱点”を見透かされた思いがした。彼らは日本の遅れを問題視しているわけではなく、むしろ、自分たちにとって「ビジネスチャンスはここにある」と感じ取ったのではなかろうか。

 うがった見方かもしれないが、金融分野にかつて身をおいていた経験から言えるのは、日本の金融市場業務の経験やスキルの遅れが、まんまと海外勢の儲けのネタにされたことがあったということだ。

 日本の金融機関が国際金融市場に本格的に乗り出したのは、1990年代後半に始まった「日本版金融ビッグバン」と呼ばれる金融システム改革がきっかけだった。様々な規制が緩和され、金融自由化の波に乗り出したわけだが、当然のことながら、金利や為替取引に係るデリバティブ取引といった市場業務スキルは海外勢が先行していた。この点は今の電力とよく似ている。

 詳しい話は控えたいが、金融取引のスキルに乏しく、社内システムの整備が遅れていた日本の金融機関に、外資はその穴を埋めるサービスを提供し、ガッチリと稼いだのである。ほんの少し勉強していれば利益をもって行かれることはなかったのにと悔しい思いをした。

 国内の電力先物の市場規模はスポット市場の数%しかない。これに対して、欧州の電力先物市場の取引量は現物市場の数倍の規模にのぼる。日々、適正な将来価格を探って売買を繰り返す先物市場は現物市場を上回るのが自然な姿なのだ。

 だが、今後は国内でも先物市場の取引規模は膨らんでいくだろう。ここ2年ほどの間、新電力も大手電力もスポット市場のボラティリティーの大きさにはほとほと悩まされてきた。2021年の燃料制約(燃料不足)や2022年のウクライナ侵攻後の燃料高騰により電力市場価格が極端な高値をつけた一方で、2023年に入ってからは太陽光発電が増えた影響が強く出て安値傾向が強まっているといった具合だ。

 このように発電側から見ても、小売り側から見ても、これまで以上に市場リスクは意識せざるを得なくなっている。価格変動リスクをヘッジ(回避)する必要性はどの事業者も強く実感するようになったのではないか。

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