経済産業省は大手電力によるカルテルや顧客情報漏洩などの一連の「不適切事案」への対応策をまとめた。だが、そこには大きな焦点だったはずの「送配電の所有権分離」について、ほとんど議論した形跡がない。

(出所:123RF)
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 8月8日、電力・ガス分野の上位審議会に当たる電力・ガス基本政策小委員会(第64回)が、昨年から今年にかけて噴出し、電力自由化の根幹を揺るがした「大手電力による不適切事案」に関する対応策を取りまとめた。

 ざっくり言えば、再発防止のために細部のルールは見直すものの、「送配電の所有権分離」や、大手電力の発電事業と小売事業を会計分離したり、別会社化したりする「発販分離」といった構造的な改革にまでは踏み込まないというものだ。

 規制改革・行政改革担当大臣が立ち上げている内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)は、一連の事件を踏まえ、3月から4月にかけて経産省に対して所有権分離や発販分離を提言していた(「大手電力会社による新電力の顧客情報の情報漏洩及び不正閲覧に関する提言」「電力カルテル等を巡る問題に対する提言」)。

 そして、6月に閣議決定された「規制改革実施計画」で、「旧一般電気事業者の送配電部門の所有権分離についてその必要性や妥当性、長所・短所を含めて検討する」ことと、「発電部門と小売部門の組織の在り方に関し、発販分離及び会計分離については、各事業者が選択可能であるという前提の上で、検討する」ことが盛り込まれた。経産省に対して年度内(令和5年度)をめどに、「検討したうえで結論を速やかに措置」することを求めている。経産省から見れば、法的に対応が要請されたということになる。

 8月の基本政策小委ではこの問題に対する経産省側の“回答”の骨子が示されたと言っていい。

不適切事案が相次ぐも、構造改革には消極的

 今後、再エネTFとの間で議論が交わされることが予想されるが、まずは2つの「不適切事案」を簡単におさらいしておこう。

 1つは関西電力を軸に西日本エリアで展開された販売カルテル。エリアを越えた競争を制限していたこの事案は公正取引委員会が摘発し、3月、中部電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジーに対して独占禁止法に基づく排除措置命令と課徴金納付命令を発出した(「電力カルテルはなぜ起きた? 関電が安値攻勢をかけた2017年からひも解く」)。

 中心的な役割を果たした関電は自主申告と引き換えに罰則は免れた。中部電力ミライズ、中国電力、九州電力は公取委との見解の違いを理由に命令取り消し訴訟を起こす。

 一方、公取委とは別に経産省は5社に対して電気事業法に基づいて再発防止体制の構築を求める業務改善命令を7月に発した。

 もう1つの大きな事案は一般送配電事業者の情報漏洩である。送配電網を利用する新電力が提出した顧客情報を、複数の大手電力(旧一般電気事業者)で小売部門が閲覧できる状態になっていた。関電はその情報を自社の営業に利用していたことも明らかになっている。

 電力において公共財と位置づけられる送配電網は、すべての小売電気事業者や発電事業者の公平利用が担保されて初めて自由競争が成り立つ。一般送配電事業者と小売・発電事業者間の情報遮断は電力自由化の根幹を成すルールだ。

 4月、経産省は関西電力、関西電力送配電、九州電力、九州電力送配電、中国電力ネットワークの5社に対して業務改善命令を発し、電力・ガス取引監視等委員会が東北電力、東北電力ネットワーク、中部電力パワーグリッド、中部電力ミライズ、中国電力、四国電力の6社に対して業務改善勧告を行った。北海道電力や東京電力グループなどを除く大半の大手電力と一般送配電事業者が情報漏洩の責任を問われるという一大事件に発展した。

 ここまでが事案の概要である。

 3月に再エネTFが所有権分離を提言した直後、西村康稔経産大臣が「慎重な検討」を求める発言をしており、その意味ではその後の経産省における議論の経緯や今回の“回答”自体は驚くものではなかった。

 だが、それでも残念というか、「これでいいのか?」という気にさせられるのは、経産省内で送配電の所有権分離の適否について、比較衡量するような議論をした形跡がほとんどないことだ。

 再エネTFは情報漏洩事案が電気事業法上の一般送配電事業者のライセンス要件に抵触するとして、ライセンスの取り消しやライセンス違反の罰則強化を求めていたが、こうした要請に対する正対した回答や見解もない。

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