電力・ガス取引監視等委員会は10月、2017年から続けてきたグロスビディングを休止する。大手電力(旧一般電気事業者)が自主的取り組みの一環として社内取引の一部を卸電力市場を介して行うグロスビディングを活用することで、市場の流動性向上などを目指したが、市場を混乱させる要因にもなった。今回の休止判断の背景には、電力市場の変化に耐えきれなくなったグロスビディングの姿が浮かぶ。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 監視委員会は7月27日に開催した有識者会議(第87回制度設計専門会合)で、グロスビディングを廃止する方針を示すとともに、10月からの休止を提案。会合では特段の異論なく、この方針が了承された。

 グロスビディングは大手電力の社内・グループ内取引の一部を卸電力市場を介して行うもので、2017年4月から6年余り続けてきた。この間、当コラムではグロスビディングが卸電力市場に悪影響を及ぼしている可能性を指摘し、見直しをたびたび求めてきた。

 グロスビディング開始から1年余りの2018年7月には「相場操縦に通じかねないグロスビディングへの懸念」と題し、東京エリアと東北エリアの間で市場分断が生じた際に公表される各エリアの価格と約定量、および両エリア間に市場分断が生じなかった際の価格と約定量の比較分析から、東京エリアのグロスビディング入札が東北エリアの価格水準を引き上げている可能性に言及した。「グロスビディングは価格中立(価格に影響を及ぼさない)」とする当局の説明に疑問を投げかけ、グロスビディングの市場価格への影響を精査するよう求めた。

 当時、なぜこうした問題意識を持ったかというと、金融市場の発想では、そもそも大口売買自体が相場操縦につながりかねない取引として警戒の対象になる。市場価格はより大きな取引量で成立する価格に吸い寄せられる可能性があるからだ。

大量の売買が常に「価格中立」であることに疑問

 また、発電部門の情報である限界費用の水準を、社内(グループ内)小売部門が事前に知って取引していたとしたら、つまり、市場支配力のある売り手と買い手が情報を共有していたとしたら、相場操縦が行われやすい環境になっていることを指摘した。

 要は、グロスビディング開始により、スポット市場の取引量はそれまでの数倍に膨れ上がるが、その大部分は市場支配力を有する大手電力の売買両建て取引で、その状態自体に当初から危険が潜在すると感じざるを得なかったのである。

 だが、結果的にはその後もグロスビディングは継続し、今日に至っている。ではなぜ、今になってグロスビディングをやめることにしたのか。当研究会は、そこには意外なちょっとした事情が隠れていると考えている。この国の電力政策というものを考える上でも、グロスビディングの成り立ちから休止までを振り返ることには意味があるだろう。

 最近は市場も落ち着いており、グロスビディングの影響を気にかける新電力も減っているかもしれない。少しおさらいをしておこう。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら