再生可能エネルギーの出力抑制を巡って、内閣府の規制改革タスクフォース(TF)が経済産業省に見直しを求めた。第1弾として石炭火力の出力下限見直しなどで出力制御の緩和を目指す経産省に対して、内閣府は早期の市場への「マイナス価格」導入と、現行の優先給電ルール廃止を迫った。内閣府の提言は公正な競争と市場改革に重点を置く。

(出所:123RF)
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 7月9日付の日本経済新聞は「電気、太陽光活用へ昼安く」という見出しで、経済産業省が省エネルギー法を改正し、家庭の電力消費を日中に誘導する施策を検討すると報じた。「日中に余る太陽光発電の電力を消費しやすい仕組みをつくる」という趣旨で、電力会社に日中が安価な家庭向けの電気料金メニューを用意してもらい、2025年度にも契約実績の報告を義務付けるという。

 一般の読者の中には「昼間の安価な電気」という表現に違和感を覚えた方もおられるかもしれない。何しろ経産省は今夏も節電を呼びかけている。要請の対象は「7~8月の東京エリア」だが、関西電力、九州電力などを除く大半の大手電力が電気料金(規制料金)を値上げしたばかりでもある。節電協力要請を受けて昼間の冷房を控える消費者も少なくないと思われる中、記事はどう伝わっただろうか。

 事実、今夏、全国的に猛暑が続く中でも足元の日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場は東京エリアを含めて2022年、2021年の夏に比べてかなり落ち着いている。今のところ前々年や前年夏に見られた日中に30円/kWhを超えるような目立った高騰はない。

 その背景として、いくつかの理由が挙げられるだろう。1つには経産省の節電協力要請や電気料金値上げによる需要の減少が考えられる。前年までの教訓から小売電気事業者が相対取引を増やしていることも効いていると見てよさそうだ。

 そしてもう1つが、日経新聞が報じた太陽光発電の影響である。これまでも太陽光の発電量が増える一方で電力需要が少なくなる春秋が、電力の余る季節として知られてきた。市場価格が0.01円/kWhを多く付けるのもこの季節だった。

 ただ、経産省が「日中が安価な家庭向け電気料金」を小売電気事業者に要請するのは、いよいよ年間を通して日中の電力が余り気味になる段階に入ってきたという認識を経産省自身が持ち始めたということだろう。「給湯器の利用や電気自動車(EV)の充電を昼間にシフトし、電力の有効活用につなげる」のが狙いだという。

マイナス価格導入は先送り?

 関連して、再生可能エネルギーの出力制御の発動が昨冬(2022年度)から増加していたことは、本コラムでも取り上げてきたところだ(「電気料金高騰と裏腹に安かった2月・3月の電力市場価格、既存の料金体系は限界に」参照)。

 このところ、いくつかの審議会で「出力制御の抑制」がテーマに上り始めた。6月27日の電力・ガス基本政策小委員会(電力・ガス分野の上位審議会)でも、出力制御の実施エリアの拡大と出力制御量の増加が取り上げられ、「(最も出力制御量の多い)九州のほか、北海道、東北、中部、中国、四国で太陽光・風力の設備容量が軽負荷期の需要を上回っている」との報告があった。

 そして、「これまで以上に踏み込んだ取り組みが求められる」とし、「年内をめどに再エネの出力制御低減に向けた新たな政策パッケージを取りまとめる」と表明した。

 本コラムはこれまで、人為的な出力制御を極力廃し、市場メカニズムを用いた調整への転換を検討すべきと主張してきた。そのために、スポット市場に0円/kWhを下回る「マイナス価格」の導入を説いてきた(「GWは東京エリアも? 再エネは出力制御せず『マイナス価格』で調整せよ」参照)。

 目的は言うまでもなく、今後の再エネ大量導入を推進するための、再エネのより高度な有効活用にある。そして、すでに欧州や米国のようにマイナス価格を導入済みの国では、出力抑制の回避や再エネの市場統合に大きな成果を上げている。

 ところが、資源エネルギー庁は「価格メカニズムを通じた供給・需要の調整・誘導」を出力制御抑制のための有力な手段として審議会では施策候補の1つに取り挙げているものの、これを「中長期対策」と位置付け、年内に取りまとめるとしている政策パッケージには入れないことを示唆している。

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