電力市場における公正な競争を実現するカギとされる大手電力の「内外無差別」。大手電力の発電部門が自社小売部門と新電力などの社外取引先を公平に扱うことを求める取り組みは電力・ガス取引監視等委員会が主導し、2020年9月には大手電力全社が“公約”として受け入れた。それにもかかわらず、いまだ達成には至っていない。何が問題なのか。

 大手電力の小売部門が子会社である一般送配電事業者の顧客情報を不正閲覧していた問題は社会的にも大きな波紋を広げた。電力市場や取引の公正さに対する疑念が膨らんでいる。この間の識者の声や報道各紙の社説の中には、大手電力と一般送配電事業者の資本関係を切り離す「所有権分離」に言及するものもあった。

 小売り全面自由化を目指した電力システム改革の議論の過程では当然、発送電分離のあり方や形態が議論された。激しい議論がぶつかり合う中、当面、子会社として別会社化する現行の「法的分離」に落ち着いたのがこの間の経緯であった。法的分離のままか、所有権分離へと規制を強めるべきか。今後、改めて問い直す議論が起こる可能性もあるだろう。

 もう1つ、公正な競争を実現するうえで重要な課題が残っている。卸電力取引における大手電力の「内外無差別問題」である。

 電力・ガス取引監視等委員会の研究会が「内部補助による競争の歪み」を指摘し、これを政策課題として提起したのは2018年のことだった(「競争的な電力・ガス市場研究会 中間論点整理」参照)。2020年9月には、大手電力がそろって社内外・グループ内外を問わず無差別に電力卸販売を行うことを公的に約束した(内外無差別コミットメント)。だが、解決の道筋は今も途上にあり、問題は解消していない。

 2022年1月には、電力分野の規制改革促進を担う内閣府の「再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース」も「グループ内外無差別的な電力取引の担保策等に関する提言」を発し、「卸販売標準メニューの公表」などの具体策を促した。

 監視委員会は 2022年11月の有識者会議(第79回制度設計専門会合) で、その後の内外無差別の進捗調査の結果を公表している。

相対交渉の情報公開にも各社でばらつき

 新電力にとって大手電力と相対取引の交渉機会を持つこと自体、ハードルが高い。まずは、新電力から見たときの相対取引のアクセスに関する取り組みについてだ。

 対象13社の進捗にはばらつきがある。

 2023年度に向けた電力卸販売に関する取り組みとして今回、北海道電力、東北電力、東京電力エナジーパートナー(EP)、関西電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の7社は交渉の受付期間とスケジュールを新電力などにホームページで広く告知した。アクセスの便宜に関する姿勢としてこれら7社は評価できよう。

 これに対して、北陸電力と九州電力の2社は受付期間は公表したものの、交渉スケジュールは申し込み事業者に対してのみ通知する。中部電力(中部HD)は問い合わせ期間だけを公表するにとどまった。東京電力ホールディングス(HD)、中部電力ミライズ、JERAの3社に至っては「検討中」との回答だった。この段階でなお「検討中」とあっては、内外無差別に向けた基本的な姿勢さえ疑わざるをえない。

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