電力自由化の根幹を問う事件が立て続けに明らかになった。1つは関西電力を軸に複数の大手電力を巻き込んだカルテル。もう1つは、複数の大手電力グループで起きていた情報漏洩である。これらはいずれも例外や偶然ではないのではないか。電力市場の規律・規範、監視の問題が根本から問われている。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 電力自由化を揺るがす2つの事件が明るみになった。

 1つは大手電力の独占禁止法違反だ。公正取引委員会は中国電力、中部電力、九州電力の3社に対して、不当な取引制限を理由に課徴金納付と排除措置を命じる処分案を通知した。3社はそれぞれ関西電力とカルテルを結んでいたとされる。

 中国電、中部電、九電は2018年秋以降、関電と大規模工場向けの「特別高圧電力」や企業向けの「高圧電力」を対象に、相手の管轄区域で互いに顧客獲得を自制するよう示し合わせたとされる。つまり、企業向け販売で競争を実質的に制限していた。関電は違反を最初に公取委に自主申告したため、独禁法の課徴金減免(リーニエンシー)制度に基づいて行政処分は免れる(「電力カルテルはなぜ起きた? 関電が安値攻勢をかけた2017年からひも解く」参照)。

 課徴金総額は約1000億円と過去最高額となった。金額の大きさもさることながら、エリアの元独占企業として最もはばかられるはずの行為を、悪びれることなく実行していた事実に唖然とした関係者も多いだろう。

 もう1つは、エリアの送配電網を独占的に担っている関西電力送配電が託送システムで管理している顧客情報を親会社である関電社員が閲覧していたという事件だ。

 1990年代半ばに競争原理が段階的に導入されてきた当初から、接続業務の中立性や競争の公正さを確保する観点で、大手電力の送配電部門が他の部門と情報遮断するのは基本中の基本だったはずだ。12月27日付けの関電の発表文には「当社の従業員等がアクセスしている事実を確認した」とある。

 2016年の全面自由化を経て、2020年に送配電部門を別法人として独立させる法的分離が完了した後も、同社の小売部門や発電部門に新電力など他社の情報が漏れていた可能性がある。にわかには信じがたい話である。

 と、ここまで原稿を書き進めたところで、1月13日、今度は東北電力の送配電子会社である東北電力ネットワークの顧客情報(新電力の契約者名など)が同様に東北電に漏れていたことが発覚した。さらに18日、九電と九州電力送配電でも同じ問題が明らかになった。特定企業の特殊事案でなかったとすれば、想像を超えて問題は深刻と言えそうだ。

崩れていた電力市場の規律

 今回、カルテル問題は独禁法を所管している公取委が摘発した。だが、当事者たちが罰金を支払いさえすればそれで済むというような問題ではない。そもそもなぜ、このようなお粗末なルール違反がいとも簡単に起きてしまったのか。1つは当事者である大手電力の意識や責任の問題はもちろん大きい。もう1つは、こうした基本的な規範意識さえ徹底しきれていなかったという意味で、普段からこの分野を監視する責務を負っている電力・ガス取引監視等委員会の問題も大きいのではないだろうか。

 情報漏洩について監視委員会は、関電と関西電力送配電、東北電と東北電ネットワーク、九州電と九電送配電の6社に報告徴収を実施し、それを踏まえて必要な処分を検討するとしている。だが、そもそもこんな違反を起こさせてはいけないのである。仮にも監視当局が「舐められている」ような面があったとしたら、自由化そのものが危うい。

 これまでにも監視委員会には「踏み込み不足」をしばしば感じてきた。公正な競争の要と位置づけ、規制料金撤廃の条件にも挙げている大手電力の「内外無差別問題」はその後、改善に向けて進展しているのだろうか。2016年の全面自由化から8年目を迎えようとしている今もなお、電力市場において公正な競争条件が十分に整備されていないとしたら、それは何故なのだろうか。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら