大手電力も新電力も電気料金に悩まされている。燃料価格や電力の市場価格が高騰するなか、燃料費調整額の上限撤廃や規制料金の値上げに向けた動きが続く。だが本当に求められるのは、価格リスクを需要家に一方的に転嫁してきたこれまでの仕組みを改めることではないか。

 燃料費調整制度(燃調制度)は、大手電力(旧一般電気事業者)が自社ではコントロールできない燃料価格や為替レートの変動リスクを需要家(電力を利用する消費者や企業)に転嫁する、自由化以前から続いてきた仕組みである。2016年の電力全面自由化後も家庭用をはじめとする低圧部門に残る規制料金(経過措置料金)に付随する制度の1つである。

 この制度下では、大手電力は燃料価格の変動に伴って低圧部門で発生した損益を3~5カ月遅れで小売料金から回収する。決算期をまたぐ期ずれリスクはあるものの、損益がほぼ自動的に調整される。経済産業省のWebサイトには次のように記載されている。

 「事業者の効率化努力のおよばない燃料価格や為替レートの影響を外部化することにより、事業者の経営効率化の成果を明確にし、経済情勢の変化をできる限り迅速に料金に反映させると同時に、事業者の経営環境の安定を図ることを目的とし、平成8年1月(1996年1月)に導入された」(経済産業省のWebサイトはこちら)。

燃料価格リスクを自動的に需要家に転嫁

 当時の日本の発電事業は、ほぼ海外からの輸入燃料に依存して発電しなければならない宿命を負っていた。そこで、燃料価格と為替の変動リスクを日本全体でシェアする仕組みが必要とされた。需要家がリスクを負う制度であってもみんなで広く負担するがゆえの公平感が根底にある。電力に関する国内の市場機能が不十分な時代には、納得感のある“国策”だったと言える。

 問題は、電力自由化が進展する中で、自由料金メニューの中にも燃調制度が商慣習として残り続けてきたことだ。

 大手電力からすると、自由化以前から続く仕組みだから需要家にも受け入れてもらいやすく、この仕組みを踏襲する限り、自由料金を掲げながらも燃料費や為替の変動リスクを企業努力で吸収したり、回避(ヘッジ)したりする必要もない。むしろ、それらのリスクをよりクリアに需要家へ転嫁できる非常に便利な仕組みだったと言えよう。

 燃調制度が残り続けた理由としては「料金メニューの比較容易性」も大きい。エリアの大手電力が提示する料金メニューに燃料費調整額という考え方が反映されている限り、新電力も比較基準となる大手電力と同じ料金構造にしたほうが、需要家に金額の違いを訴求させやすかった。その結果、大手電力か新電力かを問わず、自由料金にあっても多くのメニューで今日まで燃料費調整額が残ることになった。

 だが、今、ウクライナ情勢や世界的なインフレなどを背景にした燃料高騰や円安の進行で、この燃調制度が大きな障害として意識されるようになった(図1)。大手電力が提供する経過措置料金において燃料費調整額があらかじめ決めていた上限価格に達し、それでもなお、燃料費の高騰が進んで対応できなくなってきたためだ。

燃料価格や為替レートの影響を反映する仕組みとしてスタート
燃料価格や為替レートの影響を反映する仕組みとしてスタート
図1●燃料調整費制度の経緯(出所:第47回 電力・ガス基本政策小委員会、マーカーは著者による加筆)

 現行の経過措置料金は、一定の競争環境が整うまで、大手電力の価格支配力を抑止する観点から設定されている。いわば、小売市場における料金の“天井”として、政府の審査を経て決定される。

 だが、燃料高騰や円安を受けた卸電力市場は高値が続き、ここにきて本来なら天井であるはずの経過措置料金で需要家に販売しても、仕入れ値を下回る逆ザヤが常態化するようになった。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら