電力・ガス取引監視等委員会が大手電力に課している「内外無差別」に関する監視報告を行った。「内外無差別」は自社の発電部門と小売部門間の社内取引に比べて、新電力など社外への卸し取引を不利に扱わないことを指す。公平な競争を担保する上で重要なルールだが、監視手法には改善の余地がある。

 日本の電力市場は今も独占・寡占状態が続く。その下で公平な競争を担保するには、大手電力の発電部門と小売部門で交わす電力取引が適正な価格水準や取引条件で執行され、かつ社内外・グループ内外で取引内容に大きな乖離(かいり)のないことが要件になる。大手電力に「内外無差別」の取引行為が求められるゆえんだ。

 電力・ガス取引監視等委員会が事実上これをルール化したのが2021年度。7月26日に開催した制度設計専門会合(第75回)で2022年度の状況報告があった(「旧一般電気事業者の不当な内部補助防止策について」)。

 内外無差別が求められる対象は全国の大手電力12社。東京・中部エリアは東京電力エナジーパートナー、中部電力ミライズ、JERA東エリア、JERA西エリアの4社が監視の対象になっている。

 監視委員会は、2023年度には内外無差別な卸売りのコミットメントを確かなものとすべく、実効性を高める手法を導入する方向性を示した。だが、現段階で具体的手法は示されていない。

 気になったのは今回の監視結果そのものというより監視の手法だ。おそらく監視委員会は社内取引と新電力などとの社外取引の価格や条件を直接比較して妥当性を評価しようとしている。

 だが、大手電力の相対取引のすべてについてこの手法を続けるとしたら、大変な労力を要する。監視委員会はほかにも多くの案件を抱えており、全体の精度を維持するためにも効率化は重要な視点となろう。

 そこで、金融の話である。

 実は金融の世界でも取引の公平性を求める同様のルールが課されている。それも海外まで含めれば監視対象は電力に比べてはるかに多い。それでも、なぜ成り立つのか。金融における監視手法を参照しつつ、日本の電力に当てはめる手法を考えてみたい。

金融ではフォワードカーブを監視に使う

 金融では取引基準(比較対象)としての価格水準に、将来の価格水準を示すフォワードカーブ(FC)を採用している。ここが個々の取引を直接比較して妥当性(無差別性)を評価する今回の監視委員会の手法とは違うところだ。

 FCは先物市場における価格水準から推定される。先物市場が示すFCは、週間であったり、月間であったり、3カ月ごとであったりといった定点ポイントにおける価格水準になる。

 FCを利用したチェック手法は、市場機能を利用した監視や管理と言い換えることができる。それゆえ、監視当局だけでなく、発電事業者や小売事業者といった市場関係者が広く活用できる有益な道具でもある。やや込み入ったテクニカルな話にはなるが、市場関係者に共有してもらいたい考え方でもあるので、その点はご容赦いただきたい。

 FCを電力市場のリスク管理に応用するための手法については以前、このコラムで紹介した。その際、電力は1日単位で動く金利(金融市場)などとは異なり、30分単位で価格が変わるため、フォワードカーブも30分単位に展開するのがポイントだと解説した。

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