電力市場が健全さをいまだ確立できていない背景に、「高度成長型」のエネルギー政策が今も続いていることが挙げられる。制度的に安定供給を維持する政策から、環境価値を反映した信頼できる市場に依拠した政策への転換が求められる。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

 日本の電力市場の問題は何なのか。このコラムでは1年近くにわたって、上限価格1万4137円/kWで約定した初回容量市場や昨冬の卸電力市場の異様すぎる高騰などを材料に問い続けてきた。

 その根底には世界的なパラダイムシフトの本質をつかみ損ね、自国の成長に生かしきれていない今日の日本の姿が重なって映る。

 現行の電力自由化は、1964年に制定された電気事業法にのっとっている。これは「電気事業および電気工作物の保安の確保」について定めた法律だ。

 同法は戦後始まった高度経済成長とそれに伴う電力不足を解決すべく定められた。国民の生活が経済的に豊かになればなるほど、また社会インフラや輸出立国を求めれば求めるほど、電力不足が深刻になった時期である。日本の経済発展を確実なものとするための電力の「安定供給」を確立すべく、9電力体制やエリアごとの垂直統合、つまり地域独占による発送電一貫体制が築かれた。

 だが、1990年代には電気料金の内外価格差を是正するために段階的に規制緩和が行われ、徐々に競争原理を入れるようになる。

 既に世界の先進各国は経済が安定・低成長期に入り、より効率的な社会インフラの建て直しで先行していた。欧州ではビッグバンから始まる金融の自由化が1986年から始まり、1993年にはEUが成立した。欧米では電力自由化もこうした経済社会の再構築の一環という意味合いが大きい。

 だが、日本ではそうした認識が薄く、どこか高度成長の亡霊にとりつかれたまま、電力自由化に着手してしまったのではないか。高度成長期に確立した従来型安定供給の発想を根本から見直すことはなく、未来の電力ビジネスに必要な根本的な変革は避けた。

 送配電を含む垂直統合やエリア独占は姿を薄めつつも、電力自由化にあって最重要の課題とも言える「発販分離」や「安定供給の再定義」(制度的な安定供給の担保から電力市場の活性化を通じた社会的・経済的安定供給への移行)の問題は手付かずのまま残った(「河野規制改革相が検討を要求、日本の電力自由化に『発販分離』が必要なワケ」「電力市場の『番人不在』を問う」参照)。

 そして今日、気候変動が国際的な大テーマとなっている。これは、日本の電力自由化が当初視野に入れてこなかった課題だ。

 その矛盾が「非化石価値取引市場」の再編という形で現れた。「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」に分割する。前者は大企業を中心に需要家が参加可能な市場として、この11月にも切り出される。

 世界は猛烈な競争の中で、クリーンエネルギーを扱う企業でないとビジネスができない時代が近づきつつある。遅ればせながらグローバルな企業のニーズに応えざるを得なくなった。

 一方で、再エネ価値取引市場を切り出した後の高度化法義務達成市場は、ガラパゴス化する日本のエネルギー政策の典型と言えるだろう。電力自由化を含む国内の政策と、国際的なエネルギー利用のあり方とのかい離を象徴するような事例だ。

 高度経済成長を目的に産み落とされた経済産業省・資源エネルギー庁の発想はそろそろ限界に達しつつあるのではないか。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら