2020年の初回入札で上限価格を付けた容量市場は、急ぎルールを改定した後、2回目の入札を今秋行う(約定結果公表は12月予定)。非化石価値取引市場は急遽、「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」に2分割し、後者は8月にも入札を実施する。2つの市場が大きな混乱を見せているが、根っこにあるのは市場作りの順番を間違えたことだ。

 容量市場や非化石証書市場といった「官製市場」にほころびが出始めている。電力自由化や再エネ促進を唱える一方で、実態はそれらの足かせとなるような制度設計が進められてきた。

 今回は、先物・先渡取引市場が未成熟な状態で、無理やり補完的な市場づくりを先行させたことによる問題を改めて取り上げたい。

 市場においては同一の財であれば「一物一価」である。そのことを先々にわたって示す機能が先物市場だ。市場参加者の競争の結果、スポット価格から1週間、1カ月、3カ月と次第に長い期間にわたる適正価格を形成していく。

 電力であれば、日本卸電力取引所(JEPX)でスポット価格が形成され、それが安定的に持続する想定の下にスポット価格を指標とした先物取引や先渡取引が成立する。そして、そうした先々の電力価格を示す取引の対象期間が延びていく。その結果、市場価格を紡ぐようにフォワードカーブが形成される。

 最近では先物取引の取引実績が積み上がり始めている。これに伴い、モデルで推定するフォワードカーブと異なり、市場実態をよりリアルに反映した「マーケット・フォワードカーブ」がようやく見えるようになってきた(「『容量市場の前に先渡・先物市場を拡充』は正しい」「卸電力価格の推定スキルが電力ビジネスを強くする」参照)。

政府は人為的な制度を先行させた

 マーケット・フォワードカーブが成立する市場は、その財の代表的な価格水準を示す中核市場である。

 その場合、中核商品の価格水準を基準にして派生する市場(補完市場)は、中核商品におけるマーケット・フォワードカーブからの乖離(価格スプレッド)やそれら価格情報の変動性(ボラティリティ)を活用して成立する。

 金利の世界で言えば、銀行間金利であるスワップレートのフォワードカーブを中核として、国債や地方公共債、社債、ジャンク債などの補完市場がある。信用力や流動性の大小に応じて価格スプレッドを上乗せして債券市場が成立する。場合によっては、信用力が最も高いとされる国債が他の債券の価格水準に影響を与えることもある。

 同様に容量市場も非化石証書市場も、電力を中核商品として派生する補完市場にあたる。その意味では、通常の電力市場では補えない市場参加者のニーズを反映したもののはずである。

 しかし、中核市場(先物・先渡市場)が整わないうちに、当局は人為的な制度として補完市場を先行させた。市場形成の順序立てを間違ったツケが出てきたと言っていいだろう。

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