にわかに「発販分離」が電力改革のテーマに浮上してきた。大手電力の発電部門を販売部門から切り離し、発電競争を促進しなければ健全な電力市場の発展は望めない――。河野太郎規制改革相のタスクフォースが経済産業省に、9月までに発販分離の検討を報告するよう迫った。

(出所:Adobe Stock)
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 ここにきて、大手電力の販売部門と発電部門を組織的に切り分ける「発販分離」が俄然、関係者の注目を集める議論になりつつある。

 きっかけは、河野規制改革相が主導する内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」の提言だ。

 当初はタスクフォースが容量市場の凍結を求めた提言と併せて、容量市場導入の前段階で行うべき基本的な競争環境整備の施策の1つとして言及したものだった(「『容量市場は凍結すべき』、河野規制改革相が電力改革に見せる本気度」)。だが、資源エネルギー庁はタスクフォースが求めた2021年度の容量市場入札中止の提言に取り合うことなく、今年度の入札実施を前提とした新ルールを決めた。

 こうした事態を踏まえ、タスクフォースは4月27日の会合で、監視委員会が進めようとしている大手電力の内外無差別原則のコミットメントの速やかな具体化と併せて、「組織や資本関係を含めた発販の法的分離のあり方を検討し、本年9月までに結論を得る」ことを求める踏み込んだ要請を行った(「電力システム改革に対する提言」)。

 4月27日に出した新たな提言の中でタスクフォースは「競争政策の不十分さや遅さが新規参入者や新規電源を不利にし、再エネ主力電源化の最大の障壁となっている」と強調している。

 一方、発販分離の議論の中には、自由化が進む海外でも必ずしも発販分離をしていないという主張が見られる。国内でも電力以外の他の産業では発販一体の企業もある。

 だが、その理由はそもそもの市場の競争環境の違いが大きい。

 十分に企業間競争が働いている地域や産業では、発販一体でも問題はない。このようなケースと混同した議論は避けなければならない。事実上、今もエリア独占が残っている日本の電力体制で十分な競争が期待できないのとは大きな違いがある。

 その一方で、東電グループや中部電グループのように国内の大手電力においても発販分離が進んでいる事例はある。だが、両グループの場合、ある意味、現時点では実質的な発販分離に至っていると言えないのではないか。肝心の発電事業者間の競争が阻害されたままだからだ。

発電部門を縛る「変動数量契約」

 今回、それを象徴する仕組みが明らかになった。「変動数量契約」の存在だ。

 これは大手電力内部において発電部門が販売部門に電力を受け渡す際の契約で、販売部門が発電部門に発注する電力調達量は実需給断面に近いタイミングで決めるというものだ。つまり、販売部門が需要変動に応じて常時、自分たちに必要な量の電力を発電部門から調達できるという仕組みである。

 監視委員会が今冬の卸電力市場の高騰の背景を調査する中で、大手電力各社に対するヒアリングからその存在が確認された。ヒアリング対象になった全社が、つまり、東京電力エナジーパートナーも中部電力ミライズもJERAも変動数量契約の実施を認めている。

 だが、変動数量契約が締結されている限り、取引実態としては旧来の発販一体体制が続いると言って過言ではない。

 販売部門は実需給に合わせた調達がいつでも可能な一方で、発電部門は実需給直前まで取引量が決まらないというのは、販売部門に極めて有利な契約である。需給がタイトになるほど、発電部門はギリギリまで電源を確保する必要に迫られる。組織的には別会社であったとしても、発電部門が販売部門に振り回される(従属している)実態は変わらない。

 一般の商取引では価格と量の両方をあらかじめ決める。だが、電力の相対取引の大部分を占める大手電力の内部取引で変動数量契約(量を決めない契約)が幅を利かせていれば、取引リスクをヘッジする先渡や先物取引が広がらないのは当たり前と言えるだろう。

 監視委員会のヒアリングは内外無差別の観点から行われたこともあり、調査に対して大手電力は変動数量契約をグループ外にも適用すると回答している。だが、発電部門の取引を縛る契約の拡大は自由化に逆行する。グループ内外を問わず、変動数量契約を廃止し、すべての相対取引は確定数量契約とするのが筋である。

 仮に金融取引で変動数量契約を結ぼうとすれば、契約の自由度に対して高額なオプション料を要求されるところだ。オプション料なしの変動数量契約は買い手にとって特権的な契約でしかない。

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