2020年12月から今年1月にかけての市場高騰をきっかけに、現行の市場制度そのものに対する疑問の声が広がり始めている。市場に潜む問題は複合的だが、今一度、根本から洗い出していく必要がありそうだ。まず、市場監視の問題を取り上げる。電力・ガス取引監視等委員会の「事後監視主義」には限界がある。

 2020年12月下旬から約4週間にわたって、日本卸電力取引所(JEPX)の電力スポット相場が高騰した。しかし、この高騰はいわゆる電力市場特有のスパイクとは異なる。夜間を含む48コマのほぼ全時間帯において1カ月間、価格は"高原状態"にあった。

 今回の高騰は災害に準じるといった議論もあるが、実のところ自然災害より質(たち)が悪い。いたし方ないと思えるような自然災害ならともかく、多分に制度やルールの問題であったり、人的判断が絡んでいたりする点で人災の側面もぬぐえない。

 直接的な要因としては、LNG(液化天然ガス)不足が挙がっている。だが、それはきっかけであって、電力市場そのものに内在していた不備や欠陥に目を向けるべきとする動きも出始めている(「『高騰の原因は市場設計の不備』 規制改革相チームが卸電力市場改革を提言」参照)。

 2016年4月の全面自由化以前から日本の電力市場をウオッチしてきた当研究会は都度、市場の課題や問題点を指摘してきた。今一度、市場や制度の不備を洗い出し、今後の市場改革議論で必要になると思われる視点やテーマを考えていきたい。

 その1つが市場監視の在り方だ。

 世界に例を見ないこの異常な高騰は、要因が何であれ、本来起こしてはならないものだった。そうであれば、市場運営や市場監視にも問題があったと考えることができるのではないか。

事後監視の限界

 当研究会は現在の市場監視には問題があると考える。その大きなものが、電力・ガス取引監視等委員会の「事後監視主義」だ。

 同委員会はもっぱら事後的な調査から不正や問題行為かなかったかを検証することで市場監視としてきた。

 だが、事後的な検証には時間がかかることも多い。今回の高騰は個々の小売電気事業者の責任を超える事態にもかかわらず、事後検証ではダメージを既に被った市場参加者は現実にはまったく救われない。現在の当局の市場監視は、異常な取引や不正から市場参加者を守るという視点が希薄に感じられ、日々の健全な市場を運営する責任の所在が見えにくいのだ。

 これに対して、いわゆる金融市場の世界においては、多くの経験に裏打ちされた様々な事前監視や、自己規制が効く事前ルールが定められている。

 電力市場でも金融市場とまったく同じことが可能とまでは言わないが、参考になる点も多々あるので紹介したい。

 例えば証券アナリストの資格取得を目指す者は、通信講座を通じて知識を身に付け、専門性を高めることが求められる。その過程で「証券アナリスト職業行為基準」を学習し、職業倫理を学ぶ(「証券アナリスト職業行為基準」)。

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