日本の卸電力市場が節目を迎えつつある。これまで、先渡市場や先物市場が成長せず、あるべき先の取引価格の目安が見えない中では相対取引にも限界があった。だが、ここにきて先物取引と相対取引の価格が収れんし始めている。市場参加者は新たなフォワードカーブの推定技術を身に付けるときだ。

(出所:Adobe Stock)
(出所:Adobe Stock)

 昨年度来、ベースロード市場や容量市場など、“市場”と銘打った新たな電力関連の取引制度が立ち上がった。その成果が徐々に顕わになるにつれ、想定外の姿形(結果)に驚かされた市場関係者は少なくなかっただろう。

 理由は、電力の適正な市場価格の形成が遅れる中で、こうした作為的と言えるような“制度”を力ずくで導入したところにある。

 電力の適正価格の形成には、スポット市場(前日市場)に加え、相対取引や先渡、先物市場の活性化が不可欠なことを改めて強調しておきたい。

 ここまで先渡・先物市場の成長が不十分で、適正な電力の現在価格で将来の不測の事態(価格変動)に備える手段がない状況が続いている。

「正しい順序で市場設計を行うこと」

 この状態のまま、かなり先の期間を取引対象とするべースロード市場や容量市場をつくっても、あるいはそういった指標価格が明確でないまま、FIP(フィードインプレミアム)制度の設計を進めても、将来を含めて基準となる電力の適正価格や変動性(ボラティリティ)が見えない段階では、想定外の混乱が生じるのは当たり前だ。

 12月1日、河野太郎・規制改革相も参加して第1回目の「再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース」が開かれた。そこで、風力発電の環境影響評価(環境アセス)の在り方と並んで、容量市場の凍結が議題に挙がった。

 理由は、容量市場が現時点では非効率石炭火力の温存を助け、カーボンニュートラルや再エネ普及の阻害要因になるというもの。タスクフォースを構成する委員4人が連名で提出した意見書には、「(容量市場の前に)まず、需給調整市場の整備、先渡し・先物市場の拡充、発販分離など、正しい順序での市場設計を行うこと」との要請が明記されていた(「容量市場に対する意見」参照)。市場設計の順序に関する考え方は大いに賛同するところだ。

 ただ、先渡市場と先物市場についてはよちよち歩きとはいえ、既に立ち上がっている。活性化には当局のさらなる努力や工夫も求められるところだが、電力市場を活用する市場参加者の努力も欠かせない。

 そこで、ここでは市場参加者が先渡・先物市場や相対取引といった将来の取引を決める際の参考指標となる「フォワードカーブ」の意義や作り方について解説してみたい。

 フォワードカーブは先々の価格の適正水準を見通す際に必要になる。為替や金利、商品市場などでも広く活用されている手法だ。

 電力取引では先々の需給見通しや燃料価格水準、あるいは天候要因などを反映して先渡・先物市場価格が成立することになる。そして、先渡・先物市場を参照しつつ、相対取引を行う。逆に、約定した相対取引のリスクをカバーする取引を先渡・先物市場に持ち込むといった連関が生じることで取引全体が活性化していく。

 こうして形成された先渡・先物市場が示す1カ月後、3カ月後、6カ月後の価格水準(点)を線で糸のように紡いだものがフォワードカーブだ。将来の価値交換を公正な現在価格で行うための道具立てなのである。

この先は日経エネルギーNextの会員登録が必要です。日経クロステック登録会員もログインしてお読みいただけます。

日経エネルギーNext会員(無料)または日経クロステック登録会員(無料)は、日経エネルギーNextの記事をお読みいただけます。日経エネルギーNextに関するFAQはこちら