2015年に東京電力と中部電力の燃料・火力部門を統合して誕生した日本最大の発電事業者JERA。中部電力で経営企画畑を歩んできた奥田久栄・社長CEO(最高経営責任者)兼COO(最高執行責任者)は、中部電側でJERA誕生に向けた交渉に奔走した立役者だ。
 2023年4月に、東電側で交渉の先頭に立っていた可児行夫会長グローバルCEOと共に、JERAの経営トップに就いた。就任から1年。奥田社長にJERAの現在地を聞いた。

2023年4月にJERAの社長CEO兼COOに就任した奥田氏
2023年4月にJERAの社長CEO兼COOに就任した奥田氏
(撮影:宮原一郎)

――脱炭素に戦争とエネルギービジネスを取り巻く事業環境は難易度を増しています。

奥田氏 今、特に心配しているのは世界の分断です。2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことで分断が始まりましたが、イスラエルとパレスチナ、紅海でも同様の問題が起きています。

 私が中部電に入社したころから、ずっと「グローバリゼーションの時代」と言われてきました。世界各国が主義主張や政治体制の違いを乗り越えて、自由貿易を拡大してきました。それがあちらこちらで次々と分断されています。分断のインパクトはすさまじく大きなもので、資源やエネルギーの市場はものすごく不安定になっています。

 価格の急降下や急上昇は珍しくありません。こうした時代にエネルギー事業を手がけることの緊張感は大きいですね。これ以上、世界の分断が進むとは思いたくないですし、この流れを何とか変えたいと考えていますが、経営者としてはこうした状況も踏まえて行動しなければならないし、戦略も変えていかなければなりません。

――昨今、自動車産業などではグローバル経済からブロック経済へ移行していると言われます。世界の分断はエネルギー事業に、どのような影響を及ぼしているのですか。

奥田氏 資源は偏在していますから、他産業のようにブロック経済に移行するとは考えにくいですね。化石燃料の偏在はもちろんのこと、太陽光パネルは世界シェアの85%を中国が握っているという現実もあります。

 資源の偏在という特性があるからこそ、かねて日本はベストミックスという発想でやってきたわけです。燃料調調達先の地域を分散させるためです。どんな事態が起きても安定供給を担保できるように、強靭(きょうじん)な体制を構築し、リスクを分散することが大事だと思います。

 世界の分断がどこまで進むのか、あるいはどこかで元に戻るのか、誰にも予想できません。この状況下で、先進国ですら政策変更リスクがあります。主義主張の違う国とは取引しなければ安心かといえば、そうとも言えません。

 エネルギー安全保障が注目される中で、脱炭素の流れは継続していきます。脱炭素を進めていく時にも、分散の発想を頭の中に置いておきながら進めていかざるを得ません。資源を持たない国ですから、こうした考えに立つことが非常に重要だと考えています。

――国際エネルギー機関(IEA)は、ウクライナ戦争によってエネルギー安全保障が重要な論点となり、エネルギー自給率の向上への意識が高まったことで、結果的に脱炭素が加速すると指摘しています。

奥田氏 再生可能エネルギーの導入量の拡大が、エネルギー自給率の向上につながるというのは間違いありません。ただ、再エネ導入を進めると、その結果として、サプライチェーンの変化が起きるということを頭に置いておかないといけません。

 例えば、一昨年に欧州で風が吹かず、洋上風力の発電量が減ってしまったことがありました。洋上風力の穴は化石燃料(火力発電)で補うことになります。脱炭素化が進み、化石燃料の市場が縮小する中でこういう運用をすると、マーケットのボラティリティーが大きくなります。こうした変化が起きることを見据えたうえで、分散方法を現実的に考える必要があります。

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