脱炭素の潮流が揺るぎないものとなってきた。化石燃料である天然ガスを給するガス事業は、脱炭素化の影響が直撃する事業だ。東京ガスは国内のエネルギー会社で初めて2050年のCO2ネット・ゼロを打ち出すなど、いち早く事業転換への姿勢を示してきた。今年4月に社長に就任した笹山晋一氏に都市ガス事業の将来やLNG(液化天然ガス)調達について聞いた。

(撮影:宮原一郎)
(撮影:宮原一郎)

――脱炭素が進展すると電化が進むといわれます。2050年に向けて都市ガス需要は減っていくのではないでしょうか。都市ガス事業の将来をどうみているのですか。

笹山社長 2050年になっても都市ガスの役割は残っていると考えています。

 脱炭素化で電化が進むのは間違いありませんし、今でも毎年、電化率は上がっています。電化の流れにあらがってもしょうがないので、ガス事業者各社は電気事業に参入しています。コージェネレーション(熱電併給)や燃料電池に取り組んできたのも、電化に対応するためです。電力とガスの両方が使えるハイブリッド給湯器なども取り入れていますし、ガス事業者は時代の変化に柔軟に対応できていると思います。今後は、メタネーションという技術を使い、水素とCO2から作る「合成メタン」(e-methane)なども含めてやっていくことになります。

 既存顧客の省エネは一層、進むでしょう。脱炭素化も進みますからガス需要は減っていく。頑張っても横ばいでしょう。これをなんとかプラスに持って行きたいと考えています。

 視野を広げれば、天然ガスへのニーズは、まだまだあるのです。例えば、東京都内の再開発エリアではレジリエンスの確保のため、ガスと電力のハイブリッドシステムに高い評価を得ています。脱炭素化を進める課程でLNGを使いたいというニーズに応え、愛媛県新居浜市に四国電力、四国ガスらと共にLNG基地を作りました。アジアに目を向ければ、自国産の天然ガスが枯渇してきたのでLNGを輸入したいと言う国があります。都市ガス事業者としての知見が生きる場所があります。

――ガス事業は「ガス販売量」を伸ばすことを目標にやってきた経緯があります。

笹山社長 確かに、これまではガス販売量が事業拡大のものさしでした。これからは「量」に依存しないビジネスモデルを展開していかなければなりません。世の中はグリーン化とデジタル化で徐々に変わっていきます。

 変わり切ったところで新たなビジネスモデルを展開するのでは遅い。(既存の事業で)収益が上がっているうちにポートフォリオの転換を図っていかないといけない。今回の中期経営計画の名称を 「Compass Transformation 23-25」 としたのは、こういった思いからです。ただ、規模の経済性というのは間違いなくあるので、それはそれで追求します。

――「トランスフォーメーション」という言葉には、どんな思いが込められているのですか。東京ガスは、どんな会社になろうとしているのでしょうか。

笹山社長 これまでは需要をしっかり把握しながら、LNGを調達したり電源を作ったりして安定供給を担保しながら、フェイス・トゥー・フェイスでサービスを提供してきました。当社はすごくまじめな会社です。

 これからはお客さんが太陽光発電や蓄電池、EV(電気自動車)を導入するようになっていきます。エネルギーの供給を一方通行で受けるだけでなく、双方向になっていく。電気とガスを組み合わせて最適化していくことになるでしょう。また、フェイス・トゥー・フェイスは大事ですが、デジタルで簡潔に済ませたい人もいますから、デジタルとリアルのハイブリッドにしていきます。

 エネルギーという言葉の定義が広がっていくので、一歩先行くサービスを提供したいですね。実は不動産事業に力を入れようと思っています。“ESG型不動産”とでもいいましょうか、エネルギー事業の強みを生かした不動産事業です。新規事業をやるにしても、飛び地みたいなところでやってもうまくいかないので、エネルギーの周辺からやっていきます。

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