気象災害が激甚化しています。豪雨や台風による被害を小さくするためには、気象予測の精度向上が欠かせません。そこで今回から3回にわたり、日本の地球科学分野の中核的研究機関である気象庁傘下の気象研究所(茨城県つくば市)を取り上げます。気象庁は、台風や線状降水帯による大雨といった現象のメカニズムを解明し、2030年までに気象予測を大幅に向上させることを目指しています。気象予測の現状を、気象研究所 台風・災害気象研究部の加藤輝之部長、足立透主任研究官、梅原章仁研究官に聞きました。
――まずはじめに、天気予報の仕組みを教えてください。どうやって天気を予測するのですか。
気象研究所:天気予報は、地球を取り巻く大気や海洋・陸地の状態変化をスーパーコンピューターを使ってシミュレーションした結果に基づいて出しています。
もう少し具体的に言うと、大気の流れ、雨を降らせる積乱雲の動き、太陽からの熱といった様々な物理現象を表す方程式の集合体である「数値予報モデル」を使ってシミュレーションします。数値予報モデルをつくるためには、多くの観測データが必要です。地球の大気を細かい格子に分割し、その格子ごとに、ある時刻の気圧や気温、湿度、風などの観測データを使って、その時刻の大気の状態を正確に再現できる方程式(モデル)をつくるのです。
こうして作った数値予報モデルの時間に関するパラメーターを変化させることで、1分後、10分後、1時間後…といった具合に、将来の大気の状態を予測します。非常に計算量が多いことから、スーパーコンピューターでなければ計算できません。
――近年、天気予報の的中率は上がっていますが、気象のメカニズムはすべてが解明されたわけではないと理解しています。天気予報にはどのような課題があるのですか。
気象研究所:最近の天気予報は8割程度の確率で当たります。逆に言えば、残りの2割を正確に予測するのは非常に困難です。これと同じく、気象現象の物理的なメカニズムの解明はかなり進んでいますが、まだ分かっていない部分の解明は大変難しいと言えます。
例えば、積乱雲が発達して雨を降らせる過程や、竜巻が発生するメカニズムなどはある程度、分かってきました。一方で、集中豪雨と呼ばれる局地的大雨が発生する場所の予測は、まだ大まかにしかできません。 「あす関東地方、東京周辺で雨が降りやすい」という予測はできますが、「東京都千代田区の皇居周辺で雨が降るかどうか」は予測できないのです。
気象庁は2030年までに予測精度を高めることを目標に掲げており、気象研究所では様々な研究開発を進めています。
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