大手電力各社の不正が続々と明るみに出ている。過去最大の課徴金額となった電力カルテルに、一般送配電事業者による顧客情報の不正閲覧。細かい不正を挙げれば枚挙にいとまがない。電力全面自由化から7年、なぜ大手電力でこれほどまでに不正が続くのか。電力業界を健全化するために何が必要なのか。電力・ガス取引監視等委員会の初代委員長を2021年まで務めた八田達夫・アジア成長研究所理事長に聞いた。

電力・ガス取引監視等委員会で初代委員長を務めた八田達夫氏
電力・ガス取引監視等委員会で初代委員長を務めた八田達夫氏

--大手電力の不正が次から次へと明らかになっています。不正を防止するために、何をすべきなのでしょうか(「電力カルテルはなぜ起きた? 関電が安値攻勢をかけた2017年からひも解く」「大手電力が市場操作か、カルテル捜査で公取がつかんだ闇」)。

八田氏 真っ先にやるべきなのは、電気事業法に罰則を設けることです。その際、課徴金の最大額は独占禁止法のように、何千億単位と十分に高くすべきでしょう。

 現状の電気事業法には罰則規定がありません。罰則がなければ、内部告発する人が出てきません。内部告発者はリスクを負って告発するのですから、告発した相手に大きなダメージを与えることができないとやる意味がありません。告発した相手が何も変わらず同じポジションに残る可能性がある現状では、リスクを負ってまで内部告発しようとは思わないですから。電力・ガス取引監視等委員会にとっても、罰則のない電気事業法の下での監視は、手かせをはめられているようなものです。

 また電気事業法で、電気事業者各社が独立のコンプライアンス委員会を設けることを義務づけることも重要です。今回、大手電力のカルテルを摘発できたのは、関西電力の独立コンプライアンス委員会が、独占禁止法の「課徴金減免制度(リーニエンシー)」による自白を経営陣に促したことがきっかけになりました。関電のコンプライアンス委員会は、金品受領問題の発覚を受け、2020年に設置されたものです。

 電気事業法に罰則を設けたうえで独立したコンプライアンス委員会の設置を義務づければ、他の大手電力でも独立委員会が違反の開示、ひいては防止に動き始めるでしょう。

--電気事業法に罰則を設けるべきだという意見には強く同意します。ただ、経済産業省は一連の不正が明らかになってなお、罰則を設けるのではなく、「適正取引ガイドライン」で対応すると説明しています。

八田氏 ガイドラインというのは、あくまで自主的な取り組みを促すためのものであり、罰則とは全く意味が違います。

 「ガイドラインで対応する」という発想は、電気事業法の成り立ちに起因するものです。電気事業法は大手電力が対象となる法律ですから、政治的な事情がありました。このため、大手電力各社の自制を重んじ、善意を信頼し、一般的な禁止項目を設けるにとどめたのです。新たな規制が必要となった時にはガイドラインを作り、大手電力各社に“自主的に”ルールを守ってもらうことにしたわけです。

 このやり方でうまくいけば、問題はありません。しかし、カルテルや不正な情報閲覧という一連の不祥事によって、「自主的な取り組みに委ねても大丈夫」という現在のルールの前提が崩れてしまいました。前提が崩れてしまったのですから、電気事業法に競争阻害行為を禁止する項目と、それに伴う罰則を設けるのは当然のことです。

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