「予備率が3%に足りない」「3%は超えたが依然として厳しいので節電を」。ニュース番組やワイドショーで、こんな言葉を耳にすることが珍しくなくなっている。SNSにも「電気大丈夫?」「予備率やばい」といった言説があふれている。
 一方で、予備率の定義や求め方、そもそもの目的である電力の安定供給の監視がどのようにされているかはあまり知られていない。そこで、電力広域的運営推進機関(以下、広域機関)の小林正孝・運用部担当部長、岡田怜・企画部マネージャー、高間康弘・計画部マネージャーに話を聞いた。広域機関へのインタビューは今回から3回にわたりお届けする。1回目は予備率と燃料不足のチェックが話のメーンだ。

(出所:123RF)
(出所:123RF)

[連載]広域機関インタビュー
第1回:予備率の意味と燃料監視の現在地、広域機関に聞く(今回)
第2回:電力需給見通しとは、予備率3%は「経験的な需要のぶれ」
第3回: でんき予報100%超の理由とは、電力需給ひっ迫警報・広域予備率解剖

――政府は2022年11月1日に冬の節電要請を決定し、12月1日にスタートしました。2022年は夏にも節電要請があり、3月には電力需給ひっ迫警報が、6月には注意報が発令されて東京エリアで節電が求められました。 こうした節電要請の際に「予備率が足りない」といった説明を聞くのですが、予備率とはそもそも何なのですか。

広域機関 予備率というのは「電力の需要」に対して、発電所の「供給能力」が足りているかをチェックするための指標です。具体的には「供給能力÷需要」で出てくる数字のことです。

 この数字が100%を下回ると「需要に対して発電所の供給能力が不足している」という意味なので、停電が起きる可能性があります。つまり、「供給÷需要」は常に100%を上回ることが求められます。「100%をどれだけ超えているか」がとても重要なので、例えば105%であれば5%の部分を「予備率」と呼びます。予備率は、電力を供給する能力が足りているかを確認するための基準なのです。

予備率は「燃料は十分にある」ことが前提

――政府は2022年冬の節電要請の理由を「予備率は最低限必要な3%に足りているが、LNG(液化天然ガス)などの供給が滞るリスクがある」と説明しています。火力発電所を動かすための燃料が足りなくなることは、予備率ではチェックできないということですか。

広域機関の小林部長(右上)、岡田マネージャー(右下)、高間マネージャー(左下)、著者(左上)
広域機関の小林部長(右上)、岡田マネージャー(右下)、高間マネージャー(左下)、著者(左上)

広域機関 その通りです。LNGや石油といった燃料が足りなくなることは、予備率では考慮していません。予備率は「燃料は十分にある 」ということを前提に計算しています。

 電力が足りなくなることを「電力需給ひっ迫」と言いますが、その原因は大きく2つあります。1つは発電設備の不足、もう1つが燃料の不足です。予備率でチェックができるのは前者だけ。「ある瞬間の電力需要をまかなうことができる発電設備の量があるか」ということです。つまり「発電設備不足のチェック」と言い換えることができます。ある瞬間の電力需要や供給力はkWという単位で表すので、このことを「kWの問題」や「kW面」と呼ぶことがあります。

 いくら設備が十分にあっても燃料が足りなければ火力発電所を運転することができず、電力不足を引き起こす原因になってしまいます。この燃料の量が足りているかどうかという話は、つまり電力の量の問題です。そのため電力量の単位を使って「kWhの問題」や「kWh面」と呼ぶことがあります。

 kW面の監視は2015年の広域機関の発足前から長く行われていますが、kWh面は監視の仕組みがありませんでした。2020年度冬季に、初めてLNGの調達量不足による需給ひっ迫が発生したことで監視の必要性が指摘されました。そこで、2021年度の冬からトライアルを始めた、というのが現状です。

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