日本最大の発電事業者、JERA可児行夫副社長インタビューの後編。前編「火力退出に燃料不足、安定供給の担い手は誰?」では、JERA設立の背景から現在の電力不足への考えを聞きました。後編のテーマは不確実な時代を生き抜くJERAの戦略です。

不確実な時代、どう転んでも対応できるように選択肢を増やすと語る可児副社長
不確実な時代、どう転んでも対応できるように選択肢を増やすと語る可児副社長

――国内ではたびたび電力需給がひっ迫し、節電要請が出る事態に。ロシアによるウクライナ侵攻で資源を取り巻く環境が変わり、安定確保や自給率の向上の重要性が改めて指摘されるようになりました。この流れに脱炭素が重なり、エネルギー事業者は難しいかじ取りを迫られています。

可児氏 世界は脱炭素に向かってサステナブルなエネルギーを探してきました。再生可能エネルギーの導入は今後も拡大していくでしょう。ただ、風が吹かず洋上風力が動かない事態なども起こりえますから、補完するガス火力発電が必要です。

 近年、脱炭素を目指して欧州を中心に、石炭火力の廃止が声高に叫ばれてきました。そんな中、2021年は欧州の洋上風力発電が、風が吹かず動かなかったことで、ガス価格が高騰しました。そして2022年にはロシアによる侵攻が起きました。

 欧州勢はLNG(液化天然ガス)と石炭を買いあさっています。今はサステナビリティーに加えて、アフォーダビリティー(価格の適切さ)とスタビリティー(安定性)も考えなければなりません。

 この動きを見た世界のエネルギー企業、特にアジアで石炭を使っている企業にしてみれば、「自分が困ったら石炭火力の廃止時期は一瞬で後ろ倒しにするのか」と。同時に、本当に世界が脱炭素に取り組むべきなのだろうかと様子見になります。もしかしたら石炭の消費はこのまま続くのではないかと考えるわけです。

――先頭を切って脱炭素を推進し、石炭火力の廃止を進めてきた欧州勢の動きに変化が現れた。これを見て、世界が今後どう動いていくのかが、さらに見通しにくくなったというわけですね。

可児氏 彼らも、サステナビリティーとアフォーダビリティーとスタビリティーをどうやってバランスさせようかと考えています。ただ、代替するのは簡単ではありません。石炭火力の代替として、まず考えるのがバイオマス発電でしょう。ただ、バイオマスは価格が高く供給が不安定で、環境面で批判される可能性もあります。

 バイオマスがダメなら次に考えるのは太陽光発電です。太陽光はシンプルな利用方法であれば安価ですが、例えば「24/7カーボンフリー電力」で安定的に電力供給しようとすると、安価ではなくなってしまいます(参考記事 「米Google発祥、次世代の再エネ調達「24/7カーボンフリー電力」にどう対応するか」)。

 その次に考えるのはLNG火力。LNGは石炭に比べてCO2排出量は半分以上減りますが、現状のLNG取引価格だと手がでないでしょう。そして、もう1つの選択肢がアンモニアです。アンモニアはJERAが世界で唯一、商業ベースでやろうとしています。

「将来予測は当たったためしがない」

――どの選択肢も一長一短で、決定力に欠けているということなのでしょうか。

可児氏 現状ではその通りです。そこで、僕らは彼らに「供給のオプションを増やしましょう」と言っています。先のことは分からない。だから選択肢を増やしておくしかないと。

 JERAの経営会議でも、向こう10年、15年のエネルギー市場がどうなっているかを議論しますが、色々な意見があります。ある人は再エネのコストがもっと下がり、再エネで大部分を賄えるのではないかと言います。ある人は、まだまだ石炭火力を使い続けると言い、またある人は、再エネとLNG火力の組み合わせだろうと言う。

 こうした議論をすると、誰しも将来を当てたくなるものです。ですが、将来予測は当たったためしがありません。「どうせ当たらない。だから当てにいくのはやめよう」と話しています。頭の体操は大事だけれど、オプショナリティー(選択肢)を増やしていこうと。ただし、選択肢を増やすには時間がかかりますから、今から準備しなければなりません。

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