大手電力会社で初めて「カーボンマイナス」を目標に掲げた九州電力。その狙いは何だったのか。3.11を契機に激動の時代に突入した電力業界。電力自由化に再エネの急拡大、そして脱炭素時代の到来とめまぐるしく変わる現状を、どう見ているのか。電気事業連合会の会長も務める九州電力・池辺和弘社長に聞いた。

(撮影:諸石信)
(撮影:諸石信)

――電気事業は大きな変化の局面にあります。3.11を経て60年以上続いた地域独占体制が終わりました。そして今、脱炭素の時代に突入しようとしています。

池辺氏 徹底的に大きな変化は、カーボンニュートラルです。2020年10月に菅義偉前首相が2050年のカーボンニュートラルを宣言してから、世の中の全てが変わりました。

 これまでも再生可能エネルギーの導入などが進められてきましたが、「再エネ」というのは発電種類の1つにすぎません。当社もかねて再エネ電源を作ってきましたが、どちらかというと今までの事業の延長でした。ですが「カーボンニュートラル」と言った途端に、全く違う話になります。菅前首相のカーボンニュートラル宣言から今まで走ってきましたが、非常にエキサイティングです。

――九州電力は2021年11月30日、大手電力で初めて「カーボンマイナスを2050年よりできるだけ早期に実現する」と発表しました。会見で「リスクを取る」と発言した意図は。

池辺氏 菅前首相のカーボンニュートラル宣言で、ゴールが明確になりました。それならば、どこまでできるか分からなくても、目標を立てるべきだと考えました。2021年4月に「九電グループ カーボンニュートラルビジョン2050」を公表し、具体的なアクションプランを発表するに当たり、カーボンマイナスという目標を掲げたのです。

 電力会社というのは、石橋を叩いても渡らない。「100%できる」と思っていても言わないのが文化でした。ですが今回は、できるかどうか分からなくても、カーボンマイナスという目標を掲げ、実現に向けて汗をかくと決めました。これが会見での「リスクを取る」という発言の意味です。

--カーボンマイナスとは、具体的に何をするのでしょうか。

池辺氏 電力会社のCO2排出量は、日本全体の約4割です。残り6割はクルマや家庭で使用するガス、工場などが排出しています。この4割は我々が頑張って実質ゼロにします。それだけでなく、残りの6割の削減にも協力できることがたくさんある。

 脱炭素の実現には、電化が非常に大きな力になります。例えば、電化を推進するために、当社がEV(電気自動車)を買うのはもちろんのこと、社会がEVを受け入れ、多くの人が導入しやすくなるように、新たな充電サービスやEVを使ったカーシェアリングを考える。

 当社のCO2排出量ゼロを達成したうえで、家庭用オール電化や森林吸収への貢献、域外や海外での再エネ開発などで、脱炭素にもっと貢献するというのがカーボンマイナスの意味なのです。

 気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の最大の成果は、多国間で協力してCO2を削減するためのルールブックができたことです(編集部注:パリ協定6条の市場メカニズム)。これからは日本が取り組んできた「二国間クレジット制度」(JCM)を活用したCO2削減も可能になるので、どんどんやっていこうと考えています。

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