累計30万台の販売実績を誇るスマートリモコンシリーズ「Nature Remo」を手がけるベンチャー企業Nature(東京都渋谷区)。IoTベンチャーとして認知されることが多い同社だが、塩出晴海社長は2014年の創業当時から電力ビジネスへの意欲を示してきた。2019年には「あなたと始める電力革命」というスローガンで新商品を発売した。
 それにも関わらず、電力小売事業への参入は創業から6年以上も経過した2021年3月になってから。なぜ、今まで参入しなかったのか、何をしようとしているのか。塩出社長に聞いた。

Nature 塩出晴海社長
Nature 塩出晴海社長

――今年3月、ついに電力小売りに参入しました。いつから準備していたのですか。

塩出氏 2020年の夏に準備をスタートしました。当時はJEPX価格が安価だったので、市場連動型の「Natureスマート電気」を提供することにしました。コストメリットを出すことができ、供給側のリスクも抑えられる方法でパーフェクトだと考えていました。

 ところが、3月の提供開始を直前に控えた年初にJEPX価格は高騰しました。消費者向けの料金設定を青天井にするのはあり得ない。会社経営の禁じ手です。市場連動料金にはキャップをかけることが必要だと考え、従量料金の上限を100円/kWhに設定しました。

 ですが、高騰時に市場連動型に警鐘が鳴らされた影響は大きく、100円/kWhのキャップを付けても契約者の獲得は限定的でした。そこで、すぐさま従量料金が固定価格の「フラットプラン」を出すことにしたのです。

 開発側の工数がかかるので、3月中旬に「フラットプラン」を発表して、先行受付を開始。5月18日に提供開始しました。同時に、市場連動と固定価格を組み合わせた「ハイブリッドプラン」も展開しました。

――「ハイブリッドプラン」は、新電力が電源調達コストを安価にするためのセオリーが消費者向けの料金プランにそのまま反映されていて面白いですね。

塩出氏 ハイブリッドプランは、市場高騰が起きやすい夏と冬の従量単価は固定価格、JEPX価格が低位で安定している春と秋は市場連動にしています。供給側の電源調達へのリスクヘッジは必要です。当社が電力市場から電源を調達し、顧客に固定価格で提供すると、電源調達に関する価格リスクを当社だけが負うことになります。

 小売電気事業者の目線で調達の最適化を考えると、春と秋はJEPXで安価に調達する。高騰リスクがある夏と冬は相対契約で電源調達コストを固定する。僕らがそうしたいということは、消費者も同じではないかと考えて、ハイブリッドプランの提供を決めたのです。

――3月に電力小売りに参入してわずか2カ月の間に、1種類だけだった料金プランが3つになりました。

塩出氏 小出しにして、反応を見ながら修正していくのが鉄則だと思っています。3つの料金プラン以外にも、顧客の反応をみながら様々な手を打っています。

 例えば、市場連動型の契約者には、供給開始日から3カ月間、東京電力エナジーパートナーや関西電力の料金以下になる価格保証キャンペーンを展開しました。3月からの3カ月間であれば、市場が高騰する可能性は低いので、電源調達リスクを抑えられるだろうと判断しました。

 また、固定価格プランの契約者向けには、インセンティブ付きのDR(デマンドレスポンス)を提供するべく準備しています。7月13日に発表する予定です。

「目標は再エネ100%の世界にすること」

塩出氏 市場連動型が受け入れられにくい状況にあるとはいえ、固定価格の料金メニューを提供するだけでは、当社が電力小売事業に参入した意味がありません。市場連動型を提供しようと考えたのは、コストメリットだけではなく、電力需要の平準化を実現できる可能性を秘めているからです。

 当社の目標は、再エネ100%の世界にすること。そのためにIoTを起点に需要平準化を進め、いずれは住宅の屋根に載せた太陽光発電による電力の自家消費比率を上げていきたい。蓄電池や給湯器、いずれは電気自動車(EV)を活用して、電力会社から電気を買うのではなくて、自分で賄えるようにしたいのです。

 一般送配電事業者が設置しているメーターよりも内側(住宅側)の世界、いわゆる「Behind-the-Meter」の世界で事業を展開していきます。

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