「何のこと?意味がわからない」。この記事のタイトルを見て、そう思われた読者も多いかもしれません。確かに、日経テクノロジーオンラインをご愛読いただいている方が、「日経エレクトロニクス」の誌名を聞いたことがないとは考えにくい。しかし、これから書くことを全てご存知の方は、あまりいないのではないかと推察します。現に、本稿の最後に登場する、来年の本誌の鍵を握る重要人物も知らなかった話も出てきます。

 日経エレクトロニクスは、基本的に定期購読でお読みいただく雑誌です。このため編集部は、多くの読者が毎号続けて読んでいただくことを前提に誌面を作っています。1年を通して、分野の偏りがないバランスの良さを心がけつつ、書くべきことには大胆にページを割く。自分で書いていて歯が浮いてしまいそうですが、そうなるよう心がけていることは事実です。その結果、今年の本誌を振り返ると、業界の動きがくっきりと浮かび上がります。1年分の記事を並べて全体を俯瞰すると、時流を写した鮮やかなパッチワークに見えるように本誌は設計されているのです。少なくとも心構えとしては。

 筆者は年初に、これからエレクトロニクス業界が進む方向はIoTであり、それに関わる情報発信を強化すると書きました(記事)。IoTという言葉は漠然としすぎかもしれませんが、さまざまな分野の先駆者が、ネットワークの力を使ってかつてない事業を始めていることは確かです。注目の人物にインタビューするコラム「Innovator」では、先端のIoTシステムを手掛ける企業や開発者が、どんな未来を描いて、今どこまで来ているのかを、意識して取り上げました。

 6月号に登場したのは、NTTドコモなどと協力して農業のIT化に取り組むベジタリアの小池聡社長(記事)。8月号の相手は、ネットワークにつないだ白物家電をさまざまなコンテンツの受け皿にしようと闘志を燃やすハイアールアジアの伊藤嘉明社長でした(記事)。10月号では東京女子医科大学の村垣善浩教授が、あらゆる医療機器をつないで治療を自動化できる時代への道筋を語り(記事)、12月号のコマツの中野一郎常務執行役員は土木作業を自動化することの難しさを説きました(記事)。そして、発行したての16年1月号では、ZMPの谷口恒社長が2020年に始める計画の完全自動運転タクシーがなぜ必要なのか、熱弁をふるっています(記事)。

 異なる業界の進捗を並列に眺めて分かるのは、まだIoTはどう使いこなせばいいのかを探る黎明期にあることです。しばらくは幾多のイノベーターが、より良い回答を求めて、しのぎを削ることになるでしょう。この状況が意味するのは、業界標準の技術や部品が当分確定しないということです。ただし、その座を巡る駆け引きは早くも始まっています。